「俺ごときが自慢になるわけないだろう」と笑いながら、代わった息子さんに「君のお父さんはたくさんホン書いてたくさん演じてたくさん芝居つくって周りにたくさん自慢していいお父さんだぞ」というような話をしたと記憶しています。

「ありがと~二朗さ~ん」。最後の最後まで底抜けに明るい声で、まこっちゃんとの電話は終わりました。

 今年の2月4日、彼の訃報に触れるまで、あの夜の出来事は、まこっちゃんが酔って、ついつい陽気になって、単なる思いつきで僕に突然電話を掛けてきたと思っていました。

 訃報を知って、共通の友人と連絡を取って初めて知りました。

 まこっちゃんは、2017年4月7日に、膵臓がんステージ4の告知を受けていたのです。
 
 そんな告知を受けていた人間が、なんであんな底抜けに明るい、陽気な声が出せたのか。

 そして、あの夜、まこっちゃんが掛けてきた電話は、もちろん酔ってもいなかったし、単なる思いつきで掛けてきた電話でもなかったという気が、今はしています。

 何も知らず、呑気な話に終始した自分が悔やまれてなりませんが、ただ同時に、あれでよかったんだ、という思いもあります。

 彼が亡くなる2日前、彼のツイッターには、「さぁ!今日も子供達起こすぞー!!本田家、朝の運動会始まるぞー!!」という呟きと共に、寝ている子供たちを底抜けに明るく、底抜けに変な顔で起こそうとしているまこっちゃんの写真が投稿されています。
 
 彼が遺したブログのタイトルは、「余った命、一日一笑」。

 彼が所属した劇団ペテカンの公式ツイッターには「湿っぽいのは本田からダメ出しがきます。手と手を合わせて、合笑!!!」。

 もう一度、思うのです。あの夜、あの電話で、なんでまこっちゃんはあんなに底抜けに明るい声で話したのか。

 なぜ遺す人々に、「笑い」という、前を向く、上を見上げる勇気みたいなものを最後の最後まで与えようとしたのか。

「まぁ、でも一番自慢できる代表作は三人の子供たちである。テヘッ」。

 彼のブログの自己紹介、最後の一文です。

 まこっちゃんの自慢の代表作、三人の子供たちへ。

 知人ではあるが、それほど濃い付き合いでもなく、それでも君たちのお父さんを知る、大勢のうちの一人として言いたい。

 断言する。

 君たちのお父さんに知り合えたことが、僕の自慢です。

 君たちのお父さんは、最高だ。

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や「幼獣マメシバ」シリーズで芝二郎役など個性的な役で人気を集める。ツイッターの投稿をまとめた著書『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)のほか、96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がける。原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)が6/4(金)全国公開。

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佐藤二朗

佐藤二朗

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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