実際、歯並びの問題で唇を閉じられない人は、口呼吸によって口の中が乾燥し、ひどいむし歯や歯周病になることがとても多いのです。そうした患者さんの歯を見るとプラークがカチカチに歯にこびりつき、除去に手間取ります。歯ぐき全体が赤くはれていて、一目で歯周病とわかることも多いですね。

 いずれにしても、マスクをしていると口の中が乾燥しやすい、唇が荒れやすいといった症状は口呼吸のサインなので、このような場合、人がいないところではマスクを外すこと、周囲に配慮しながら、口の中をうるおすためにこまめに水分(水かお茶)を取ることをおすすめします。

 また、粘膜免疫をきちんと働かせるために、歯みがきやデンタルフロスで口の中の細菌を減らすことも大事です。また、口の中の善玉菌を増やす働きのある乳酸菌製剤やこれを含むヨーグルトなどを取ることで、粘膜免疫の働きをアップさせることもよいのではないでしょうか。

 口呼吸にはほかにもさまざまな害があります。まず、鼻呼吸では外の空気がからだの中に入る前に鼻で汚れやウイルスを捕捉しますが、口呼吸では直接、有害物質が入ってくるため風邪にかかりやすくなり、アレルギー症状のリスクにもなります。

 また、寒い空気、温かい空気がもろに入ってくるので、これがのどや肺の刺激になることも。また、口呼吸で顔の筋肉が適切に使われなくなると、たるみやシワなどが起こりやすいといえるかもしれません。女性には深刻な問題ですね。

 なお、お子さんの口呼吸はマスクではなく、アレルギー性鼻炎による鼻づまりや扁桃(へんとう)肥大によるものが多いです。将来、歯並びやかみ合わせの異常を引き起こす原因となるので、早めに対処することが大事です。気がついたら、まずは小児歯科や耳鼻咽喉科に相談することをおすすめします。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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