さらに最近は歯科顕微鏡(マイクロスコープ)という便利な器具があります。暗く狭い歯の根も顕微鏡治療では明るく拡大できます。X線を参考にしながら経験と勘を頼りに施す従来の治療とは大きな差が出ます。ほかにも使い勝手がよく、便利な医療機器がたくさんあるおかげで、現在のところ、診療にこれといった支障は感じません。

 また、これは歯科医師に限りませんが、今の60代、70代はからだも心も若いのではないでしょうか。人生100年時代といわれますが、大きな病気をしなければ、相当な年齢まで現役で診療ができるのではないかと思います。実際、私の師匠は御年86ですが、現役の歯科医師として、今でもほぼ毎日、診療をしています(ただし、昔からの患者さんの定期検診がメインです)。働くことは生きがいでもあり、私も含め、多くの歯科医師は、少なくとも70代までは働きたい、と思っているのではないでしょうか。

 引退する歯科医師が少なければ、ますます歯科医師が高齢化し、過剰に歯止めがかからなくなるのでは……と思うかもしれません。しかし、「歯科医院の数がコンビニより多いのは悪いこと? 低年収で歯科医の悩みも深刻…」の回でも書きましたが、患者さんにとっては「歯の調子が悪いと思ったらすぐに診てもらえる」という点で、歯科医院が多いほうがいいことは間違いありません。

 また、歯科医院は都市部には過剰かもしれませんが、福井県や島根県などではまだまだ数がそれほど多くない地域もあります。人口が減っている農村地域などでは歯科医院がなくて困っているところもあると聞きます。

 この点、心配されるのは、歯科医師過剰問題の解消のために、国が歯学部の定員を減らしていることです。文部科学省の調査では2019年度入学の定員(国公私立の歯学部合計)は2470人。ピーク時だった3380人(1985年)と比べて26.9%も減りました。

 また、歯科医師国家試験の問題は年々、難易度が高くなり、10年前は80~90%近かった合格率が2020年は65.6%と低くなっています。

 加えて、「歯科医師数は過剰で、もうからない」というイメージが先行し、歯科医師を希望する若者が減っていると聞きます。このような理由で、新たに歯科医師になる若者は今後、減ってくるわけです。

 実際、私のまわりで後継ぎがいないために、「閉院はやむをえない」という歯科医院がぼちぼち出てきました。

 医師もそうですが、開業している歯科医師は年をとると少しずつその仕事を子どもに引き継ぎ、かかりつけの患者さんには自身の引退後も、安心して来てもらえるようにしています。

 地域にはこのような、その地に根差した診療所の存在が不可欠なのですが、こうした診療所が減ってしまうとすれば、問題だと思うのです。

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若林健史

若林健史

若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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