下咽頭がんは、初期は手術(部分切除)や化学放射線治療で根治を目指す。進行がんでは手術が主となるが、がんが大きい場合は咽頭だけでなく喉頭も摘出する。喉頭とは、気管と食道の分かれ道にある「のどぼとけ」の部分で、声帯がある。

■経口的手術により機能温存も可能に

「下咽頭は喉頭と背中合わせの位置にあるため、がんの位置や大きさによっては下咽頭に加え喉頭も切除します。喉頭を摘出すると声を失うことになるため、治療方針については治療後の発声機能も含め十分に相談することが必要です」(同)

 喉頭を温存するために放射線治療を検討することもある。国立がん研究センター中央病院放射線治療科の村上直也医師はこう話す。

「喉頭摘出を希望しない場合は、喉頭を温存して声を残すために化学放射線治療、あるいは導入化学療法として薬物療法をした後に化学放射線治療を選択することもありますが、がんの大きさや進行の度合いによっては難しいこともあります」

 手術においては、外側からのどを切開するのではなく、口から器具を挿入して手術をおこなう「経口的手術」が最新治療として普及しつつある。

「初期の中咽頭がんと下咽頭がんでは、経口的手術が選択されることが多くなっています。経口的手術では気管切開が不要なことも多く、術後も嚥下などの機能を維持しやすいメリットがあります。また、頭頸部がん領域でもロボット手術がおこなえるようになり、日本頭頸部癌学会による基準を満たす病院で臨床研究として実施されています」(山下医師)

 放射線治療の技術も進歩しており、がんだけに集中して放射線を照射することで正常組織への影響が少ない「強度変調放射線治療(IMRT)」が標準治療となっている。この方法は、さまざまな方向から照射する線量をコンピューターで制御することで、複雑な形状のがんでも必要な部分に適切な量の放射線を照射することができる。

「放射線治療の利点は、機能温存を図れることです。一方で、嚥下機能の低下や味覚障害、唾液腺障害などの副作用が生じる可能性もあります」(村上医師)

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多くの場合切除手術と再建手術を同時に