江川は高卒でプロ入りしていれば、通算200勝以上は確実だったといわれるが、夏の甲子園優勝の時点ですでに投手として完成形に近い状態だった斎藤も、高卒即プロなら、「少なくとも、もう2、30勝は上積みされていただろう」とシミュレートするファンも多い。

 だが、長年にわたる低迷で、次第にその存在も忘れられつつあり、そんな“たられば”の話も俎上に上がらなくなって久しい。

 今季はまだ1軍で出番がなく、イースタンで中継ぎとして17試合に登板し、1勝3敗、防御率7.64(9月25日時点)。2軍でも苦闘の日々が続いている。

 それでも斎藤が「ボロボロになるまで」とこだわるのは、プロでも一流と呼べる実績を残した江川に対し、「(プロ入り後の実績で)自分には失うものがない」という開き直りの気持ちもあるのかもしれない。

 江川引退時と同じ32歳になったかつての“ハンカチ王子”が、自らの美学を貫くための闘いの場となるシーズンオフが刻々と近づいている。(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球 を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)

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久保田龍雄

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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