でも誰しもが最初から機敏に働けるわけではありません。化粧品の並べ方が間違っていたり、メイクの最中に私に手渡す化粧品が間違っていたり。細かいことを数え始めればきりがないです。

 でも、私は思うのです。場数を踏んでいない若いひとがミスをするのは、当たり前。それをカバーできる自信があるからこそ、私は若いひとを連れてきている。

 だからそのミスに対して私が全責任を負うのは当然のことだと。

 そんなところでこちらがイライラして、若いひとを叱ったり、怒鳴りつけても、相手は萎縮するばかりで「成長」には結びつきません。そして現場の雰囲気がピリピリするだけです。

 ミスはしても、いいのです。ただし年長者は、若いひとに同じミスを二度とさせてはいけません。そのためには、若いひとのミスを、年長者はきちんと覚えておくことです。

 そして仕事が無事に終了したあとに、あるいはその翌日になってからでもいいでしょう。大勢の前で叱りつけるというやり方ではなく、その本人だけに「お疲れさま。でもああいうときはね」と、指導をしていけばいいのです。

 自分が仕事でミスをしたことは、ミスをした本人が一番わかっています。本人がパニック状態にあるときに何か言うよりも、本人の頭の中がある程度クリアになってから言葉をかけたほうが、効果は何倍もあるのではないでしょうか。

 年長者は目の前のことを見るのではなく、「そのさき」を見て、若いひとを育てるべきです。感情で叱れば、それまでの信頼関係が崩れるだけ。ひと呼吸置いて言葉をかける余裕が、年長者には必要なのです。

 とがめるのではなく、若いひとの肩にそっと手で触れ、落ち込んでいる背中を押してあげるような気持ちで。

【しなやかに生きる知恵】
若いひとがミスをするのは当たり前。ただし、同じミスは二度とさせないようにする、それが年長者の心得です

小林照子(こばやし・てるこ)
美容研究家。ヘア&メイクアップアーティスト。1935年、東京都生まれ。東京高等美容学院を卒業後、小林コーセー(現・コーセー)に美容部員として入社。数々の大ヒット商品を手掛け、85年、同社初の女性取締役に就任。その後独立・起業し、美容ビジネスの企業経営や後進を育てる学校運営をおこなっている。『人生は、「手」で変わる。』(朝日新聞出版)、『これはしない、あれはする』(サンマーク出版)、『なりたいようになりなさい』(日本実業出版社)、『美しく生きるヒント』(青春出版社)他著書多数。YouTubeにて「小林照子TV」がスタート

著者プロフィールを見る
小林照子

小林照子

小林照子(こばやし・てるこ)/美容研究家。ヘア&メイクアップアーティスト。1935年、東京都生まれ。東京高等美容学院を卒業後、小林コーセー(現・コーセー)に美容部員として入社。数々の大ヒット商品を手掛け、85年、同社初の女性取締役に就任。その後独立・起業し、美容ビジネスの企業経営や後進を育てる学校運営をおこなっている。『人生は、「手」で変わる。』(朝日新聞出版)、『これはしない、あれはする』(サンマーク出版)、『小林照子流 ハッピーシニアメイク』(河出書房新社)ほか著書多数

小林照子の記事一覧はこちら