2年前の甲子園で大きな話題となった金足農・吉田輝星の熱投 (c)朝日新聞社
2年前の甲子園で大きな話題となった金足農・吉田輝星の熱投 (c)朝日新聞社

 残念ながら今年の夏の甲子園大会は中止となったが、過去10年間を振り返って甲子園で最もインパクトを残したチーム、選手となると一昨年の第100回大会で準優勝を果たした金足農、そしてエースの吉田輝星(日本ハム)になるだろう。

 大会前の前評判は全く高くなかったが、鹿児島実、大垣日大、横浜、近江、日大三といった全国でも指折りの強豪校を次々と破る戦いぶりは金農旋風と呼ばれ、社会現象にもなった。そして更に大きな議論を呼んだのがエースである吉田の起用法である。敗れた大阪桐蔭戦では5回でマウンドを降りたものの、秋田大会から甲子園の準決勝までを一人で投げ抜き、その球数は1517球にも及んだ。この出来事から投手のケガ予防に関する有識者会議が開かれ、今年の春からは大会期間中の1週間で一人の投手が投げられる球数は500球以内というルールが制定されたのだ。

 高校野球の世界では既に一人の投手で勝ち抜くことは難しいというのは既に共通認識となっており、かなり緩やかな制限とはいえ球数の上限が決められたことで吉田のような例が今後出てくることは考えづらい。そして今年の高校野球を見ていると、更に新たな時代に突入した印象を受ける。

 エースではない控え投手のドラフト候補が非常に多いのだ。代表的な例では松島元希(中京大中京)が挙げられる。チームには高校ナンバーワン右腕の高橋宏斗がいることもあって、甲子園の交流試合では登板機会がなかったが、サウスポーから繰り出す140キロ台中盤のストレートは威力十分だ。上背の無さもあることから大学進学が有力視されているが、もしプロ志望ということになれば獲得を検討する球団が出てくる可能性は高いだろう。

 更に驚かされたのが履正社の大型右腕、内星龍だ。チームには昨年夏の甲子園で優勝投手となった岩崎峻典など力のある投手が多いこともあって秋までに公式戦の登板はゼロ。この夏がデビューとなったが、140キロ台中盤のストレートを連発して一気にスカウトの注目を集める存在となった。8月30日に甲子園で行われたプロ志望高校生合同練習会でも、参加した投手の中で3番目となる最速147キロをマークしている。山本由伸にそっくりなフォームで、190cmの上背から投げ込むストレートの勢いは間違いなく高校生では上位である。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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