「24時間テレビ」(日本テレビ系)のTシャツでも話題になった現代アーティスト、小松美羽(35)。10年前まで全くの無名だった彼女の作品は、2014年に出雲大社に奉納され、15年には大英博物館に所蔵されるほど評価が跳ね上がった。以降、16年にはニューヨークのワールドトレードセンターで常設展示され、17年の台北の個展では3万人を集め、18年の日本橋三越ではバブル期以降で来客動員数と販売の新記録を達成した。なぜいま、社会は小松美羽を求めるのか。彼女を育てたプロデューサーとギャラリストに聞いた。
●バーに飾られていた不思議な画
2009年。42歳だった高橋紀成さんはその年、父や親しい人との別離を経験した。大切な人たちが、身の回りからひとり、またひとりと消えていく。40代に入り、参加するのは結婚式より葬式の方が多くなっていることに気づいた。「生きるってなんだろう」。そんなとき、バーに飾られていた絵に目が止まった。
怪獣のような物体が大小2体。銅版画で着色もされておらず、不気味さすら漂うその絵のタイトルは『かわいい寝顔』(のちに『神と子』に改題、画像1)。可愛さは微塵も感じなかったが、高橋さんにはそれが神さまと子どもに見え、穏やかな気持ちになれた。画家は子育てを終えた60代ぐらいの女性だろうか。バーのオーナーを通じて会わせてもらったら、現れたのは24歳の女性だった。のちにプロデュースをすることになる小松さんだ。
「いつから絵を描いているんだ?」
「えっと……生まれたときからです」
真剣に、ときに手を震わせながら話す彼女だったが、会話は全く噛み合わなかった。ただ、例の絵についての会話だけは、ストンと腹に落ちた。
「あの絵、俺には神さまとその子どもに見えた。どこにも神さまは描かれていないのに、実に不思議な感覚だ」
「神さまの姿は人間の創造で勝手に決めたものです。それをそのまま描く必要はないのです」
小松さんが描くのは「神獣」だ。実在しない神獣を通じて「あの世」を表現する。人間たちが争いを繰り返す「この世」と違い、魂が集う「あの世」は差別もなく調和を重んじる世界だという。小松さんの作品は、そんな世界との媒介になり、観る人を包み込む。高橋さんもそのひとりだ。
小松さんは長野県の自然のなかで育ち、動物の生死に触れることで独特の死生観が育まれた。祖父が亡くなったとき、魂が抜けていくのが見えた、とも。作品の描き方も独特だ。マントラを唱え、瞑想状態のままキャンバスに向かう。描き終えてはじめて我に帰ることもあるという。