西田亮介さん(撮影/写真部・張溢文)
西田亮介さん(撮影/写真部・張溢文)

 コロナ禍で人々に不安を感染させたもののひとつに、インフォデミックがある。「情報 information + 感染症拡大 epidemic/pandemic)」を意味する造語で、情報はその真偽を問わず量が膨大になるほど、人々を不安に駆り立てる。WHOは今年1月にすでに、インフォデミック対策に乗り出し、リスク/クライシス・コミュニケーションが大事だと世界に呼びかけていた。だが「日本ではそれがうまくいかなかった」と、社会学者で『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』(朝日新聞出版)を上梓した東京工業大学准教授の西田亮介さんは分析する。

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 コロナ禍に関する報道のなかには、初めて見聞きする用語が多い。たとえばオーバーシュート(感染症患者の爆発的な増加)やロックダウン(都市封鎖)。こうした耳慣れない用語も、不安の感染と関係しているのだろうか。

「意味がはっきりしないカタカナ語を多用したのは小池百合子東京都知事ですが、それらの発言はメディアで大きく取り上げられ、人々の不安感を喚起しました」

 西田さんは、その理由はふたつあるという。

「ひとつは目新しさです。何を意味するかわからず日本語で的確に説明しにくい言葉が、人々の理解が追いつかないまま毎日繰り返されました。もうひとつは、どうしても人々が、すでに他国で先行して起きているオーバーシュートやロックダウンの状況と重ねるからです」

「報道に加えてSNSも発達して、よくも悪くも世界は過去と比べて“見えすぎ”ているのでしょう。日本ではロックダウンを遂行するための法的根拠ははっきりせず、実際にはほとんどが要請にとどまりますが、たいていの人はそれを知らないから、明日にも都市封鎖が行われるのではないか、罰則付きの外出禁止令が出るのではないかと思ってしまった、ということです。当たり前ですよね」

 言葉といえば、「武漢ウイルス」「東京問題」といった発言が分断や差別を煽ったと見る向きもある。西田さんはこう考える。

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「武漢ウイルス」「中国ウイルス」はリップサービス?