「子どもの命を守ることが一番大切」と話す妹尾さん。左は愛娘
「子どもの命を守ることが一番大切」と話す妹尾さん。左は愛娘
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 私は現在22歳のシングルマザーで、1歳7カ月の娘を実家で育てている。先日、3歳の娘を餓死させ、保護責任者遺棄致死の疑いで警視庁に7月7日、逮捕された東京都大田区蒲田に住む梯沙希(かけはし・さき)容疑者のニュースを耳にした。

【写真】“炎上クイーン”として知られるシングルマザーといえば、この人

 彼女は私と同年代のシングルマザーだ。悲しいというかなんというか、言葉にできないほどの絶望感に苛まれて、リビングを走り回る娘を私はとっさに抱きしめてしまった。すると、そのニュースを知った祖母が目に涙を浮かべながら「あんたは良かったね」と言った。本当にその通りだと思った。私は本当に運が良かった。

 私はシングルマザーでありながら、おそらく彼女とは子育ての環境が全く違う。私は母親、祖父母、叔母に加えて、元旦那やその家族にも子育ての協力をしてもらっている。シングルマザーとはいえど、一人で子育てをしているわけではないのだ。一方、報道によると、彼女は周囲の人たちに子供の存在を話しておらず、母子の姿を知っている人は近所のコンビニ店員やオーナーしかいなかったという。この子育て環境の違いを考えると、私はとても運が良く、恵まれている。

 もちろん彼女の犯した罪は許されるものではないし、擁護するつもりはない。彼女の愚行に対して非難の声が殺到するのは当然のことだと思う。でも、それで終わらすことはできない。心のどこかから小さな声が聞こえてくるのだ。

「ひとりぼっちでお母さんをするのは本当に辛かったよね」

 周囲の人たちに支えられながら子育てをしている私でさえ、心がいっぱいになる日はある。「逃げ出したい」と思う瞬間もある。彼女が本当に“ひとりぼっち”で3年間も子育てをしていたのであれば、その苦悩は他人には計り知れないものだっただろう。そしてシングルマザーだけではなく、子育てをしている人ならば、その最中に「逃げ出したい」という思いが生まれてしまうことは自然な感情なのではないかとすら思う。

 私の友人に歌手をしながら、母親の協力を得て、子育てをしているシングルマザーがいる。その友人もよく「もう限界だ」と嘆いている。そう感じていてもだれかれ構わずに口にはできないのがシングルマザーの現実だ。彼女は子どもの存在を世間に公表していて、以前、子どもを寝かしつけてから、夜2、3時間程度母親に預けて一人で外出をしたのだが、そのことが世間の目にふれると大バッシングを受けてしまった。1週間のうち6日と21時間以上、どんなに必死に子育てをしても、2、3時間自分の時間を持つだけで、世間から母親失格のレッテルを貼られる。遊びは子育ての対極ではないのに。私自身にも似たような経験はあるが、世間が「母親」というものに対して、求めるものはとても厳しい。今回のような事件がその背景にあるのかもしれないが、少なくとも子育てをしている母親に対して批判を繰り返し、時間や楽しみを奪い、自由を抑制しようとすることでは、今回のような事件を防ぐことはできないだろう。むしろ、逆効果だ。

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