私たち多くの母親は子どもの健やかな成長に加えて、ほんの少しでも自分の時間を持つことを心から望んでいる。これを「ぜいたくなことだ」とか「自ら望んで親になったくせに」といった言葉で片付けるのは簡単だが、子供の健やかな成長には親の精神的安定が不可欠であり、それには多少の自分の時間はもちろんのこと、母親になるまでに大切にしてきたものを、なるべく捨てずにいられることが重要だと思う。

 まずは、今ある小さな命とそれを取り巻く環境を守るために、もう少しだけ「母親」に対して、優しい気持ちを持ってほしい。子育ての現実を知ろうと試みてほしい。そして、かなうことなら自分にできる小さな“手助け”を一つでもしてもらいたい。私はバスで無言で席を譲ってくれた男性のこと、新幹線で大泣きする娘を見て「元気で何よりだよ~!」と大きな声で言ってくれたおばちゃんのこと、レストランで「赤ちゃん人見知りする? 私が抱っこしてる間にお母さんご飯食べて」と言って娘を抱いてくれた店員さんのことを覚えている。この人たちにとっては取るに足りないことだったかもしれないが、された方はそれ以上のあたたかさと励ましを感じるものだ。そんな小さな積み重ねが、悲劇を回避するひとつの策になりえると私は思う。

 今回の事件にやるせない気持ちを抱いたのなら、母親を非難するだけではなく、シングルマザーの現実を知ること、日常生活で少しでもいいから彼女たちの存在を意識してほしいと心から願う。本当に少しの時間と思いやりでいい。直接的な手助けじゃなくても、「母親はこうあるべきだ」という先入観を疑ってみてほしい。それだけでシングルマザーはとても生きやすくなる。そして、そこにはきっとこれから先、救われる子どもの命があるはずだ。(コラムニスト・妹尾ユウカ)

◆妹尾ユウカ
せのお・ゆうか/1997年8月生まれ。一児の母。コラムニスト。ツイッタ-のフォロワー数は7万6千人(2020年7月現在)。