「怒り」ほど生産性の低い行為はないと断言するのは、『簡易生活のすすめ――明治にストレスフリーな最高の生き方があった!』の著者である山下泰平さんだ。「簡易生活」とは、人づきあいや見栄・虚飾を一切やめるという究極のシンプルライフのこと。山下さんに「怒らない」秘訣を聞いた。

■「怒り」がパフォーマンスを下げる

 緊急事態宣言中に、ある知人が「理不尽なクレームの電話が増えた」と嘆いていました。それだけ余裕のない人が増えたのでしょうね。不安定なご時世ですから無理もないのかもしれません。

 けれど、「怒る」ことは、人間のいろいろな活動のなかで、もっとも生産性の低い行為です。なぜなら、怒られたほうはもちろん、怒った自分自身も嫌な気分になるから。

 文句を言っているほうも後々にまで嫌な感情を引きずってしまい、なかなかパフォーマンスが回復しません。それは非情に悲しいこと。だから、僕は怒らないようにしているんです。

 そう聞くと、「あなたの怒りの沸点が、元々低いのでは?」と思われるかもしれません。いえ、そうではなく、昔はむしろ怒りっぽくて、すぐに切れ散らかす人間でした。

 そんな僕がなぜ怒らないようにしたのかというと、「簡易生活」の「平民主義」という考え方に感銘を受けたからという一面があります。「平民主義」とは、その字面の印象どおり、身分や地位、性別などに関わらず、すべての人を平等に扱うことで人類全体のパフォーマンスを向上させるという考え方です。

 使いやすいものとしては、どんな人でも「サン」付けで呼んだり、すべての人に対して同じ喋り方で接するというテクニックがあります。

 実際、僕も職場では平民主義を実践しています。上司でも、後輩でも、出入りの業者でも誰にでも、「サン」を付けて呼んでいます。そうやって振る舞うことで、上の人との距離が近づきますし、下の人は自分が尊重されていると感じ社会人としての自覚が芽生えてきます。

 他にも、僕は誰に対してもタメ口でしゃべっています。だから、よりいっそうに距離を近づけることができているという側面もあるでしょうね。

 もちろん、上司にもタメ口です。だいだいの人はおもしろがってくれるのですが、なかにはものすごく嫌な顔をする人も。そういう人は大抵頭が硬いので、ある意味バロメーターにも使えるかもしれません。

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平民主義をなんのために実行するのか?