■大規模クラスターとなり、救急だけでなく病院機能全体に影響が出ました。


 
 当院では最終的に患者7人と職員29人、計36人の感染者が出ました。そのうち医師は3人、看護師は19人です。 

 最も想定外だったのは、複数の患者・職員の感染に伴い、感染者以外の多くの職員が、健康観察のため2週間の自宅待機を余儀なくされたことです。特に看護師の待機者が多く、当院には1000人を超える看護師が勤務していますが、延べ人数で350人、特に多かった4月12日ごろには、一度に220人もが自宅待機になってしまいました。そのため、新規入院や外来の中止、手術の制限、救急の受け入れ停止など医療機能の縮小をせざるをえませんでした。

 そのような院内状況にもかかわらず、新型コロナの患者は増え続けていきました。最も多いときで48人の患者が入院し、4月23~24日には重症患者だけで17人を数えました。当時は、救命救急センターのCCU(心臓疾患患者に特化したICU)6床と、EICU(救急患者専用のICU)8床の計14床すべてが、重症の新型コロナ患者専用になっていました。自宅待機で人員が少ない中、それだけの重症者の治療を行うのは本当に大変でしたね。

 新型コロナ感染症では約2割の患者が重症化し、ICUでの集中治療が必須になります。また重症患者は、回復にとても時間がかかります。回復にほぼ2カ月、さらにPCR検査が陰性になるのにも時間がかかる。4回も5回も検査をし、いったん陰性になっても、次にまた陽性ということもあります。

 ICUのベッドを空けたくても、検査が陰性にならなければ、なかなか受け入れる医療機関などがありません。次に重症患者が来てもベッドが空いていなくて入院できず、医療状況が逼迫することになってしまいます。
(文・梶葉子)

【プロフィール】
有吉孝一医師/1991年福岡大学医学部卒。沖縄県立中部病院の外科レジデントを経て、93年神戸市立中央市民病院(当時)で救命救急センター専攻医。佐賀大学医学部准教授、同附属病院救命救急センター長などを歴任。2010年神戸市立医療センター中央市民病院救命救急センター救急部長、13年から同センター長。