歯と歯肉の境目のプラークにより生じた炎症は、セメント質、歯根膜、歯槽骨へと広がっていきます。

 炎症が起きている部分では、発赤、腫れや出血、時には痛みが見られますが、これは本来、からだを守る防御反応です。プラークの中の歯周病菌が歯肉に攻撃を仕掛け、中に侵入しようとすると、からだはなんとかして菌をやっつけようとします。からだへの侵入を抑えようと、病原菌を撃退する働きをする白血球などが毛細血管の血流を通じて病巣部にたくさん送られます。

 いうなれば歯肉を戦場として、歯周病菌と白血球のすさまじい戦いが始まるわけです。戦う際に白血球などから産生される各種の炎症性物質が細菌を殺す成分です。一方、歯周病菌も負けじと毒素など、色々な武器を繰り出します。こうしたさまざまな物質の働きで、歯肉に炎症が起き、歯周組織の破壊が起こるのです。

 この戦いによる代償は大きいものです。戦場となった土地は荒れ果てて、建物などが破壊されるように、歯肉も同様に炎症の代償として自分のからだを傷つける、つまり歯周組織を壊してしまいます。本来、歯にぴったりと付着していた歯肉が剥がれ、歯と歯肉の間にすき間、すなわちポケットができてしまいます。

 さらに歯周病を放置しておくとプラークはこのポケットの中に潜り込み、再びその場所で炎症を起こし、歯周組織を次々と壊すという悪循環に陥ります。

 後で詳しく述べますが、この病巣部にいる歯周病菌や炎症性物質などは、歯肉の血管から全身に入り、動脈硬化や糖尿病、アルツハイマー病などさまざまな病気を引き起こしたり、悪化させたりする要因となります。炎症を放っておくことはからだにとってよくないことなのです。

 歯周ポケットが深くなり、炎症が拡大していくと、歯の周りの骨も破壊され続け、やがて支持を失った歯はぐらつき始めます。むし歯もないきれいな歯であっても歯周病が進めば、最後にはある日、ぽろりと抜けてしまうことがあるのです。

 歯根の先まで失われた歯槽骨は元には戻りません。進行した段階では歯周病治療をおこなったとしても、炎症をコントロールして、歯周組織が破壊されるのをストップするのがせいいっぱいで、歯周組織再生療法をもってしても治療には限界があります。

※『続・日本人はこうして歯を失っていく』より

≪著者紹介≫
日本歯周病学会/1958年設立の学術団体。会員総数は11,739名(2020年3月)。会員は大学の歯周病学関連の臨床・基礎講座および開業医、歯科衛生士が主である。厚労省の承認した専門医・認定医、認定歯科衛生士制度を設け、2004年度からはNPO法人として、より公益性の高い活動をめざしている。

日本臨床歯周病学会/1983年に「臨床歯周病談話会」としての発足。現在は、著名な歯周治療の臨床医をはじめ、大半の会員が臨床歯科医師、歯科衛生士からなるユニークな存在の学会。4,772名(2020年3月)の会員を擁し、学術研修会の開催や学会誌の発行、市民フォーラムの開催などの活動をおこない、アジアの臨床歯周病学をリードする。