このことは、現代社会で起きている、教育介護、医療、そして政治や経済などにまつわるあらゆる問題に通底していると帚木さんは強調する。


 
 さらに、現在の新型コロナウイルス禍について、帚木さんの言は及ぶ。

「今、日々、不安と閉塞感に苛まれている人々が多いようです。なかには、抑うつ状態に陥っている人もいるでしょう。そうすると、皆、脳が安心したいから、理解しがたい、耐えがたいことに対しては、安易な答えを出したくなります。浅はかな為政者は、“戦争状態だ”などと言ったりしています」

「しかし、“巣ごもり状態”という、私たちに与えられた稀な時間がある今だからこそ、じっくり考える時間を持って、理性(知的体力)を研ぎ澄まし、夫婦、親子、そして関わりのある人との共感を取り戻して欲しいです。寛容さも養ってください。私たちは、ネガティブ・ケイパビリティと出会ういい機会を与えられたのです」

 そして、コロナの災禍を乗り越えた先に、より深い人間の理解が、少しでも多くの人のなかに醸成されることを望みたいと帚木さんは結んだ。

(取材・構成/医療ライター・伊波達也)