しかし、その一方で、「真面目な働き者であるがゆえに、現場の人に疎まれてしまう」パターンも実は多いようです。

■「自分は正しい」という価値観の強さが再就職先でのつまずきに

 ある元自衛官は、よかれと思って、正しいことだと思って、細かい仕事を見つけたり、改善点を指摘したりしていました。

 しかし、再就職先での周囲の空気がおかしい。ある日、「なんでそんなことまでするのですか。私たちまで、それをやらなくてはいけなくなるじゃないですか」と反発を受けたというのです。

 周囲と足並みが揃わず、善意が空回りする。周囲の反発をうまく受け流したり、自分が折れたりできれば良かったのですが、その方は「自分は正しいことをやっている」という価値観を緩めることができませんでした。

 これまでがんばってきた自分を全否定されたように感じ、大きなショックを受けて、うつ状態になってしまったのです。

 長期間、均一な論理や規律の中で過ごしてきた結果、「自衛隊的な価値観」しか知らない、箱入り息子的なところが自衛官にはあるのです。

 もちろん、自衛官に限らず、一つの組織で長年過ごしてきて、「これが正しい」という価値観をしっかりと身につけてきた人ほど、定年後に直面する大きな環境変化に適応できず苦しむ、ということが起こりえます。

■シニア期に重なるライフイベントが負担を強める

 定年後には、大きな環境変化が起こります。

 これまでは当たり前に期待されていた「役割」がなくなる。組織で与えられてきた「目標」もなくなる。「収入」も立たれ、家庭における「居場所」もこころもとなくなります。年齢とともにますます疲れやすくなり、疲れからの復活も長引く、という自分の変化にも直面します。

 中高年以降のシニア世代がうつに陥りやすい要素の一つに、「ライフイベントの重なり」があります。ライフイベントとは、誰にでもある日常的な出来事のこと。出来事は、変化でもあります。結婚や就職、身内の死といった大きな出来事から、人事異動や地域活動など、それぞれの出来事には必ず「人間関係」がともない、「感情」が揺さぶられます。だから、一つひとつの出来事は小さくても、積み重なると「大きなエネルギーの消耗」になるのです。

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心身の不調に陥る可能性は「50%」…