日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「新型コロナウイルスの対策」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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周知のとおり、封鎖された中国・武漢にとどまらず、中国国内はおろか、世界へと感染が拡大し続けている新型コロナウイルス。結局、世界保健機関(WHO)はいったん宣言を見送ったものの、1月30日に新型ウイルスが中国以外で拡散するリスクを理由に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」であると宣言した。それにもかかわらず、コロナウイルスによる新型肺炎の感染者数は日に日に増える一方です。
中国の保健当局は2月10日時点で、中国国内の患者数が4万171人を超え、死者は中国本土だけで908人になったと報告しました。新型コロナウイルスによる死者数は、2002 年に中国広東省で流行したSARS(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス)の全世界の死者774人を上回っています。
このような状況の中、ここ1カ月で、武漢の臨床医や研究者らを中心に10報以上の医学論文が発表され、新型コロナウイルス感染の実態が少しずつ明らかになってきました。1月下旬には、アメリカの世界的な医学誌(NEJM)に、『12月半ばからすでにヒト・ヒト感染が起きていた』という中国の感染研からの報告が掲載されました。この報告は、初期対応が間違っていたことを中国の感染研が認めたことを意味しています。感染者の基礎疾患や年齢、初期症状、死亡数など、大量のデータを集めて論文という形でシェアをしている一方で、日本はどうでしょうか。
厚生労働省のホームページに「14日以内に湖北省への渡航歴がある方、あるいはこれらの方と接触された方ではない場合は、お近くの医療機関を受診してください」とあるように、日本では湖北省に関係のある人しか検査を受けることができないのが現状です。