王道・全日本プロレスでおこなわれていたのが『ファミリー軍団』と『悪役商会』の絡み。『ファミリー軍団』には現役晩年、タイトル戦線を退いたジャイアント馬場をはじめ、ラッシャー木村、渕正信など名選手たちがずらり。対する『悪役商会』には、大元司、永源遙などの昔ながらの悪役が揃った。わかりやすい反則を絡めたコミカルなやり取りで、激しい試合が続く中の箸休め的な役割を演じた。

 ファミリー軍団の中で存在感を発揮していたのが百田光雄。日本プロレスの父、と呼ばれる力道山の次男として有名な一流レスラー。基本に忠実なスタイルで、参戦した興行を今でも盛り上げ続けている。

「前座や『お笑い系』などいろいろな場面で試合をした。常に考えていたのは、メインイベントを会場が温まった状態で迎えてもらうこと。他の試合がどんなに良くても、メインイベントが盛り上がらないと興行は成功とは言えない。メインが締まるから、お客さんは満足して帰ってくれる」

 長い間、百田に託された大きな役割は、第1試合で若手選手のカベであり続けること。付いた名は試合時間に合わせて『6時半の男』であった。

「前座ではいかに会場が温まるように持って行くかを考える。リングインしてすぐに会場を見回して、その日の雰囲気を感じ取ることが大事。大人しそうな雰囲気なら、わざとお客さんの目の前で打撃技をやったりする。時には場外乱闘をリング外で仕掛けることもある」

 武道館大会が毎回超満員になった全日本プロレス絶頂期、百田の登場は6時半から中盤戦へと移行。ファミリー軍団の一員として御大・ジャイアント馬場をサポートする役割を担う。

「中盤で『お笑い系』の試合を組まれた時には、前後とのバランスを考えた。1つの興行を通じてずっと激しい戦いばかり組まれていては、お客さんも疲れてしまう。また、すべての試合の印象も薄くなってしまう。メリハリではないが、『お笑い系』の前後で変化が出るように、ある意味バカになりきることも必要とされる。僕の横には世界的なスターもいたわけだから、思い切ってそれができたというのもある」。

 フリーダムズ新木場大会のリング上には、『お笑い系』のレジェンド・菊タローが登場。特別レフリーとして第1試合(前座)を面白おかしく裁いた。 20年以上に及ぶプロレスキャリアを誇るベテランレスラーであり、09年には大阪プロレスお笑い王座(大阪プロレス)、オープン・ザ・お笑いゲート・タッグ王者、オープン・ザ・お笑いゲート王座(共にDRAGON GATE)というお笑い三冠を達成。まさに現在の『お笑い系』第一人者だ。

「『お笑い系』といっても、それぞれの選手はタイトルマッチに出ても遜色ないくらいのプロレスはできる。プロレスができないとお笑いはできない。そのために普段からしっかり練習を重ねている」。

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技術力がないと成り立たない「お笑い系プロレス」