ただ、学生運動は「失敗」ばかりだったわけではない。闘争に敗れた後に故郷に戻り、医療や福祉、農業などの分野で自らの住む地域を支えることに人生を捧げた人も多い。日本で「女性学」の分野を切り開いた上野千鶴子・東大名誉教授(48年生)も、全共闘世代だ。
女性解放運動にも、いろんな形があった。前出の名村さんは、「ウーマン・リブの考え方は共感できるけど、一緒に活動はしなかった」という。むしろ、戦前・戦後の日本の女性たちがどのように生きてきたのか、それまでの歴史学で見落とされていた女性史の調査に興味を持った。
「成田空港建設に反対する三里塚闘争は過激派の運動だったと思われていますが、実際はその土地に住む農民の母ちゃんたちが大事な役割をしていました。そういった人たちの生き方に、影響を受けました」(名村さん)
「全共闘世代」の多くはすでに70歳を超え、まもなく75歳以上の「後期高齢者」となる。アンケートでは、明治大学短期大学出身の上野敏江さん(47年生)が、「最後に言いたいこと」の項目でこう書いている。
<政治、社会を変えられるという思いで、エネルギーをぶつけてきた。あの時ほど真剣に『人はなぜ生きるのか』という命題に真正面から考え取り組んだことはなかった。学生運動を通しての仲間との議論はその後につながる礎(いしずえ)になった>
上昇傾向にある女子の4年生大学進学率は18年度に50.1%まで上がり、男子(56.3%)との差は急激に縮まっている。ところが、大学院の進学率になると5.8%で、男子(14.8%)との差は大きい。18年には医学部の入試で女子差別が行われていたことも問題となった。全共闘世代が取り組んだ社会問題は、今でも完全な解決がなされないまま残っている。
今の時代を生きる若者について、前出の岩井さんはこう話してくれた。
「自分たちの権利が誰かに侵されていることについて、鈍感になってほしくないですね」
(AERA dot.編集部・西岡千史)