レンズの解像力を理由に挙げる写真家もいる。

「レンズの性能をいちばん発揮できる」(関根学)、「多くのレンズでいちばん解像力のピークにあたる」(長根広和)、「解像力」(秦達夫)、「もっとも解像するf値がだいたいそのへんだから」(古市智之)

 レンズに入射した光が絞り羽根を回り込む現象を「回折」というのだが、極端に絞り込むと回折の影響が大きくなり、レンズの解像力は低下してしまう。逆に絞り開放付近では収差の影響が大きく、やはり解像力は低下する。そのため、絞りf8付近で解像力がピークとなるレンズが多いのだ。

 なお、絞り開放とf8の両方が好きという飯田鉄さんのコメントは「味わいとシャープネス」だった。

■大口径レンズをフルに生かせる時代に

 ちなみに、絞り開放付近を好む写真家のなかには「f1.2」「f1.4」「f1.8」と、きわめて明るい絞り値を回答した写真家が7人いた(川合麻紀、小澤太一、並木隆、ハナブサ・リュウ、藤井智弘、藤里一郎、伏見行介)。花を撮る写真家もいるが、スナップやポートレート撮影をする人が多い。

 この結果を別のポートレートを撮影する写真家に話したところ、「信じられない!」という反応が返ってきた。「プライベートの写真ならともかく、依頼仕事でこの明るさで撮るって、ないですよ。だって、ピントがきませんから」と言う。

 このような絞り値で写すと、被写界深度はまさに紙のような薄さとなる。しかも近距離での撮影のため、わずかな被写体や撮影者の動きでもピントの移動量が大きくなり、従来のAF一眼レフではなかなかピントの合ったカットを撮影できなかった。スナップやポートレート撮影向きの大口径レンズを持っていても、明るい絞り値をフルに生かせる機会はあまりなかったのだ。

 そんな状況を変えたのがミラーレス機と一眼レフのライブビュー撮影機能の登場である。ボディー内に置かれていた従来型のAFセンサーを用いずに撮像センサーに映った被写体像でダイレクトに合焦するため、高精度なピント合わせができる。

 ただし、実際には合焦速度とのバランスをとらなければならないため、数年前までは一般的な一眼レフのAFよりもピント精度が高いとは一概にはいえなかった。ピント精度と合焦速度は相反する関係にあるのだ。

 ところが、最近ではミラーレス機と一眼レフのライブビュー撮影機能のAFはピント精度、合焦速度とも格段に進化してきている。それによってf2未満の絞り値でスナップやポートレートを撮影してもピントの合ったカットを問題なく撮影できる機種が増えてきた。カメラの進化によって大口径レンズの性能を余すことなく生かせる時代となってきたのだ。(文・米倉昭仁/編集部)

※文中一部敬称略

※『アサヒカメラ』2020年1月号より抜粋