年金暮らしになると、交際費は重くのしかかってくる。親戚づきあい、友だちづきあいなど、人間関係が広い人ほど、その負担は増え、悩ましい問題だ。

 女優の故・樹木希林さんは、相手が誰であっても、香典を一律3000円と決めていたという。大人の振る舞いについての指南書で定評がある作家の菅原圭さんが、自著『ほどよい“居場所”のつくりかた――60歳からの人づきあいの知恵』でも紹介した、樹木さんの姿勢に学ぶ、無理のない冠婚葬祭の付き合い方を紹介する。

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 定年退職し、年金暮らしになったのだから、生活をスリムダウンしなくては。そう努めているつもりなのだが、なかなか減らせないのが交際費だ。この年代になると、身辺で亡くなる方が多くなり、その都度、少なからぬお金を包まなければならない。

 亡くなった方との関係性にもよるが、親戚筋だったら3万円ぐらい。友人関係でも1、2万円は包むのが普通だと、私は思い込んでいた。

 ちなみに、以前はこういう場合に包む金額は偶数は避けるという考え方があった。だが、最近はあまりこだわらなくなってきているそうで、1万円では少しさびしい、でも3万円ははずみすぎ、と思うなら、2万円もあり、となってきているようだ。
 
2、3年前など、1年に8回も葬儀に参列しなければならなかったこともあり、しょっちゅうお金を引き出しにATMに走っていた。そのうえ黒のスーツも新調した。これは当方の体形変化のため。自己管理を怠ると高くつく、という教訓を得たしだい。

 香典など、冠婚葬祭のつきあいはシニアになっても欠かせない。それに相応のお金がかかるのは、やむを得ないと諦めているのは私だけではないだろう。

 昨年、亡くなった樹木希林さんは「誰であっても香典は3000円」と決めていたと知って、目からウロコだった。もちろん、樹木さんはケチだったわけでも、貧乏だったわけでもない。

 樹木さんは不動産が好きで、若い頃から“物件を見るのが“趣味”だったそうだ。芸能界の仕事は浮き沈みが激しく、安定性を欠く。だから少しでも余裕ができたら“物件”を買い、賃貸収入を得、安定した生活基盤を築いておく、という考えもあったらしい。実際は、不安定どころか年齢を重ねるにつれ、樹木さんならではの味が出てきて、折り紙付きの演技力と相まって、売れっ子中の売れっ子。CM出演も多く、芸能界でも指折りの豊かさだったと聞く。

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それでも香典を3千円一律にした理由