インターネットやSNSで医療情報を発信するようになって、これまで聞こえてこなかった患者さんの声が届くようになりました。

「言葉遣いは優しいのだけれども、テープを剥がす時にビリッといく医療従事者は苦手」と言う患者さん。

 私たち医療従事者が気がつかない部分で患者さんたちは傷ついていました。

 例えば、がんに伴う痛みはしばしば緩和ケア医に治療をお願いします。それは痛みのコントロールに関しては私たち皮膚科医より緩和ケア医のほうが一般的に上手だからです。

「痛みに関して緩和ケアを紹介されたことで、見放されたと感じる患者さんもいます」

 北見さんは患者さんの声を代弁して教えてくれます。

「(緩和ケアに紹介するという)結論だけ言われると患者さんは不安になります。私たち相談員は『先生はこういう思いで紹介したんだと思います』と伝えます。医師と患者さんの関係性の改善や修復につながるようなサポートを心がけています」

 では、どうしたらいいのだろう。

「先生たちがもう少し補足して説明してあげると患者さんたちが安心します」

 本当に一言追加するだけのことなんですよね。私はこれまでの自分の診察を振り返り、言葉足らずだった場面をいくつか思い返し反省しました。

 医者と患者は一緒に病気を治療するために、同じ目標をもって進んでいくことが必要です。患者さんが医者を信頼していれば、安心して治療を受けることができます。

 では、医者と患者の信頼関係とはなんなのでしょうか?

『大辞林』(松村明編、三省堂)によると「信頼」とは「ある人や物を高く評価して、全て任せられるという気持ちをいただくこと」。

 患者さんが医者を「信頼する」ということは、私たち医者は知識や技術だけでは不十分で「すべて任せられるという気持ち」をいただけなければなりません。

 対がん協会で北見さんの話を聞いて、私は思いました。

 患者さんが医者に「すべて任せられる」と思ってもらうためには、「このお医者さんは私のことを見捨てることは絶対にない」と、心の底から信じられる言葉と態度を見せ続けることが必要なんじゃないかと。

 症状や状態によっては転科や転院をすることが患者さんにとって結果的に利益になる場合もあります。

 それでも「いつでも戻ってきて大丈夫です」と患者さんに伝えることが大事なんだと、改めて気づかされました。

 私はもうひとつ、質問をぶつけました。「がんに対する心の問題の相談には、正解がないものが多いと思いますが、どう答えているんですか?」

 最後に北見さんは教えてくれました。

「答えは患者さんご自身が見つけていくことが多いです。まずはじっくりお話をうかがいます。これまでの人生をどう生きてきたか、困難に直面したときにどう乗り越えてきたかなどをお聞きしたりし、相談員との対話を重ねていくなかで、ご本人が気持ちを整理できていくことも多いです」

 患者さんの話を聞いて、患者さんの中にある答えを一緒に探す。そういう丁寧なコミュニケーションをずっと続けている対がん協会のみなさんに、心からの敬意を表したいと思います。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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