10年以降はユーモラスなテイストのCMをオンエア。上司たちの勝手な意見に振り回され、手帳に記入した会議日程を何度も書き直すビジネスマンを映した。スケジュールが二転三転する中、「外資と合併だ!」と駆け込んできた会長に続いて外国人の新社長が「ハイ、オツカレサマデシタ~」と登場。「就任式は火曜日です」と想定外のイベントが組まれるというコミカルな展開で支持を得た。


 
 14年からは、社会人になったばかりの男性がもうひとりの自分と向き合いながら、母親に宛てたメッセージをカードに書いては消す作業を繰り返す姿などを映すエモーショナルなCMが放送された。

 現在は「間違いは直せる」というキャッチコピーで17年に制作された3作品を継続して放送している。居酒屋の店員が「おじや」のオーダーを誤って「おやじ」と伝票に書いてしまったために、カップルの席に“おやじ”が提供されてしまう「居酒屋」篇。手帳に「健康“珍”断」と記入した男性が医師から「踊ってみてください」などとおかしな指示を受ける「健康診断」篇。秘書が予定表に「午前休」を「“牛”前休」と書いたため、社長が牛の前でゴロゴロとくつろいでしまう「社長」篇で、それぞれ間違いに気付いて文字を消して書き直すと奇妙な事態が解決する内容だ。3作品合わせても1カ月間に放送される回数は10回に満たないが、CM好感度調査では安定的な得票を続けている。同期間で数百回オンエアしたにもかかわらず1票も得られないCMも珍しくない中で驚異的といえよう。

 フリクションのCMでさらに特筆すべき点は、CM開始時以外は有名タレントをほぼ起用していない点だ。今回のコストの定義からは外れるが、タレント契約料はCM制作費の中で大きなシェアを占めるため、この点においてもフリクションのCMは非常に効率がよいといえる。CM好感度ランキング上位を見ると、ほとんどの作品に有名タレントが出演している。ごくまれに“ノンタレント”のCMも上位に入るが、そうしたCMはかわいらしい動物が登場したり、有名な楽曲や替え歌を使用してダンスを披露したりと、タレントに代わるインパクトやパワーのある要素を盛り込んでいることが多い。フリクションはそれらのいずれにも頼らず、秀逸なストーリーのみで勝負している。しかもただ面白いだけではなく、きちんと「商品のためのギャグ」として機能していることがポイントだろう。

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“人の心”が介在するCM