この番組を初めて見たときには「ここまで純粋なお笑い番組は久しぶりに見た」という驚きと感動があった。似たような番組として頭に浮かんだのは、かつて同じ日本テレビで放送されていた「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ!!」だった。「お笑いウルトラクイズ」でも、中堅芸人から若手芸人まで大勢の芸人が大がかりなロケ企画に挑んでいた。当時の彼らは「笑いのためなら死んでも構わない」というぐらいの気迫で、文字通り命がけでリアクション芸に取り組んでいた。出川哲朗やダチョウ倶楽部がリアクション芸人としての才能を開花させたのもこの番組からだ。

 この番組に出る芸人は、何よりも第一に現場にいるビートたけしを笑わせることを考えていた。その雰囲気が「有吉の壁」と重なって見えるのだ。「有吉の壁」に出ている芸人も、あの手この手で有吉を笑わせようと必死になっている。有吉という「壁」を超えられれば、お笑いの世界で認められたことになり、ひいては世間に認められることにもなる。

 この番組の有吉は、厳しい審判として芸人たちの前に立ちはだかっているのだが、一方では優しい笑い上戸の一面もある。くだらないことをやったときほどゲラゲラと笑い、たとえスベった人がいてもコメントでフォローして笑いに変えてしまう。

 今回優勝を果たしたのは、番組初期からの常連であるとにかく明るい安村とパンサーの尾形貴弘だった。「ブレイクしそうなキャラ芸人選手権」という企画で、とにかく明るい安村が披露した「北海道の田舎から出てきた自分が東京に来て変わった」ということを歌に乗せたリズムネタは、有吉からも「笑えてジンとくる」と絶賛された。客席にいた芸人の中には涙を浮かべている人もいた。

 笑いの向こう側に生き様が浮かび上がってくる。純粋なお笑い番組がときどき見せてくれるそんな奇跡を目の当たりにすると、やっぱり笑いほど素敵なものはない、と改めて思わされる。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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