対応力と器用さを合わせ持ち、ゆるい雰囲気の番組も成立させる。有吉弘行の好感度は高い(C)朝日新聞社
対応力と器用さを合わせ持ち、ゆるい雰囲気の番組も成立させる。有吉弘行の好感度は高い(C)朝日新聞社

 一昔前に比べると、地上波テレビのバラエティ番組の内容が大きく様変わりしている。一言で言うと「純粋なお笑い番組」が激減しているのだ。

 確かに、芸人が出ている番組はたくさんある。いまやテレビのほとんどすべてのジャンルで芸人が積極的に起用されている。だが、その一方で、純粋なお笑い番組は少なくなっている。

 私が思う「純粋なお笑い番組」とは、笑いだけを目的として作られている番組のことだ。現代の地上波テレビでは、そのような番組を作るのが難しい。ゴールデンタイムやプライムタイムでは特にそうだ。

 芸人が出ているお笑い系の番組であっても、ある程度は生活に役に立つ情報が含まれていたりする。何の役にも立たないし何のためにもならない、ただ笑えるだけの番組というのはあまり見られなくなっている。

 そんな中で、高い志のもとに昔ながらの純粋なお笑いをやっていると感じられる数少ない番組の1つが「有吉の壁」(日本テレビ系)だ。2015年から不定期で放送されている特番で、10月2日には最新回の「有吉の壁12」が放送された。

 大勢の芸人たちが有吉を笑わせるためにロケを含むさまざまな企画に挑む、というのが番組の基本的なコンセプトである。出場する芸人の数が多く、芸歴の幅も広い。アンガールズのようにすでにテレビタレントとして長く活躍している中堅芸人もいれば、EXIT、宮下草薙のような売り出し中の若手芸人もいる。大勢の芸人が体当たりで笑いの真剣勝負を繰り広げる姿は見ごたえがある。

 純度の高いお笑い番組では芸人の目の輝きが違う。例えば、「M-1グランプリ」などのお笑いコンテスト番組でもそのような様子は見られるのだが、ネタの要素がないこの番組でも根底に流れているものは同じだ。芸人にとっては、作り込まれた漫才を演じるのも、ロケで全力でふざけるのも、笑いの真剣勝負という意味では大差ないのである。

 この番組では、芸人たちが次々に繰り出すパフォーマンスに対して、有吉がたった1人でマルかバツかの判定を下していく。その的確なジャッジや鋭いコメントには、今のバラエティ界を背負って立つ有吉弘行という芸人の風格が感じられる。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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