バラエティ番組でまともなことを熱く語ってしまったことに照れた淳は「俺、こんなことを言うためにロンドンハーツやってるわけじゃない」と付け加えた。FUJIWARAの藤本敏史もカメラに向かって「亮、聞いてるか? ええこと言ってるぞ」と言った。

「芸人が芸人をイジるのは悪意からではない」というのは、お笑いの世界では基本中の基本にあたる。むしろ、杉山のようにキャリアの長い芸人がそれを理解していなかったことが不思議なくらいだ。自分ばかりが責められている状況で何とか反撃しようと考えて、うっすら感じていた不満が思わず漏れてしまっただけなのかもしれない。

 ネット上の番組の感想などを見てみても、淳のこの発言に対する称賛の声が相次いでいる。淳の主張は、芸人全体の意見を代弁したものと言っていいだろう。芸人が他人を貶めるようなことを言って笑いを取る「イジリ」は、表面的な行為だけを見れば「いじめ」と大差ない。だが、内実は大きく異なるのだ。

 芸人とは、観客を笑わせることだけをどこまでも追求する仕事だ。一般的には他人の悪口を言うのは悪いことかもしれないが、芸人同士でそれが行われる場合には、誰もがそのことで笑いを生み出そうとしている。結果的にウケてもウケなくても、それ自体は笑いを取るための正当な行いであるということになる。

 坪倉は杉山に対して、酒をやめるかお笑いをやめるかの二択を迫った。だが、杉山が出した結論は「一度に3杯しか飲まないと誓うから酒を飲ませてほしい」というものだった。坪倉は「ダサい」と吐き捨てるようにこぼしたが、いったんそれを妥協点とすることになった。

 芸人が芸人をイジるのは悪意からではない。柄にもなく淳が熱く語った言葉は、アルコールに蝕まれた杉山の心を動かすことができたのだろうか。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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