試合では医務室にいるマッチドクター専用のカメラが複数用意されており、マッチドクターは、画面を見ながら選手が脳しんとうや頭部外傷を起こしていないかどうかを慎重にチェックします。倒れている選手や脳しんとうの疑いのある選手を見つけた場合には、ドクターが無線でレフェリーに連絡し、試合を一時中断して該当選手を一時交代させることができます。

 最初のグラウンド上での評価で、脳しんとうと診断されれば、選手は試合から離脱して交代します。グラウンド上での判断が難しい場合には、一時交替の選手が出場し、グラウンド外の静かな部屋に移動して最大10分間の評価をおこないます。そこで、もし少しでも脳しんとうの疑いがあればプレー復帰は不可能となりますし、脳しんとうと認められなければプレーへの復帰が許可されます。ただしグラウンドでの評価の後も、3時間以内でのフォローアップ評価、36~48時間での経時的な評価がおこなわれます。脳しんとうの診断方法には「ヘッド・インジュリー・アセスメント(HIA)」という手法が採用されており、より精度の高い診断がおこなわれています。

 このTMOのビデオ判定が採用されたことにより、脳しんとうを起こした選手がそのままプレーを継続してしまうことをかなり防ぐことができるようになりました。

 ワールドラグビーでは、選手を守るための安全対策やグラウンドサイドの救命救急などが進んでいます。ラグビーは最も激しいスポーツの一つであるため、競技の魅力を保ちながら安全性を高められるよう、そのルールについても、医師の意見を取り入れながら年々改正が重ねられています。そんな点にも注目すると、スクラムの組み方やタックルの仕方など、試合の見どころが変わってくるかもしれません。

 プロのラグビー選手たちはみな、けがを予防するために日々特別なトレーニングを積み、高いスキルを身につけ、頑強な肉体を鍛え上げてプレーに臨んでいます。

 ラグビーワールドカップの試合をテレビで見て、なんて面白そうなスポーツなんだとやりたくなってしまったみなさん。いきなりまねをしてけがをしたり脳しんとうを起こしたりすることがないよう、くれぐれも気をつけてください。

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松本秀男

松本秀男

松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長。

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