私はそうやって死にたい日を一日ずつ先延ばしにしてきました。死にたい夜をたまたま乗り切って、無理やり生き延びてきた気がします。だから、どうかあなたも生き延びてね。

――【質問者】ありがとうございます。

*  *  *

 中川さんの話を聞いて、強調したいポイントを2つ挙げたいと思います。1つ目は、いじめは誰もが苦しむということです。

 3年前から仕事で中川さんとお会いする機会も増えてきましたが、毎回、私が驚くのはスケジュールのハードさです。海外を含む出張ロケや深夜の仕事もあり、取材日当日も7本のインタビューが入っていました。すべてご著書の『死ぬんじゃねーぞ!! いじめられている君はゼッタイ悪くない』(文藝春秋)関連の取材です。つまり1日に7回、自身がいじめられた経験を話したわけです。会うたびに人並み外れたガッツと心の強さを感じていました。が、そんな中川さんも、いじめで苦しんだのです。

「心が強ければいじめなんて平気」という見方は今もありますが、これはまちがいです。人の悪意を浴びるということは精神力ではカバーできないことです。

 強調したいことの2つ目は、心の傷は回復に時間が必要だということです。中川さんの周囲には、親を始め本人に心を寄せる人がいました。周囲に理解のある人がいても、心の傷は、すぐに解消されません。

 中川さんの場合、本人としては不本意ながらも教室に入らない時間があり、いじめとの関わりを断ちました。この一手目は重要だったと思います。その後に「好きを集める時間」を送っています。この時間は、いわば「心の休息時間」と言えるでしょう。休息時間によって癒され始め、「そうでもない日がやってきた」と中川さんは話しています。

「そうでもない日」を積み重ねてから、人は次に向かいます。周囲は一足飛びに解決を求めて、すぐに「大丈夫だよ、次へ向かおう」と当事者に言ってしまいがちですが、心の傷が回復するまでには時間が必要です。

 いじめは「精神力」によって跳ね返せるものではないこと、心の傷には回復するための時間が必要だということ、この2つは強調したいポイントでした。

 ただ、それ以上に、「生きる理由が知りたい」と言った当事者の思いの切なさと、その当事者に対する中川さんの優しさが心に染みたインタビューでした。(文/全国不登校新聞・石井志昂)

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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