村松孝彦監督は「岩手でできたことが甲子園でできなかったのは、本当の根性がついていなかった」と“甲子園の魔物”の怖さを痛感させられた様子だった。

 9安打のチームが22安打のチームに勝つという常識では考えられない珍結果が話題になったのが、02年の2回戦、興誠vs日章学園だ。

 高校通算45本塁打の朝比奈良文が4番を打つ興誠。対して、プロ注目のブラジル留学生3人を擁する日章学園。初出場チーム同士のフレッシュ対決は、序盤から激しい点の取り合いになった。

 2回に興誠が金子成都の左越え3ランなどで4点を先制すれば、日章学園も4回に5長短打で同点。5回には安富太祐の中越え2ランで6対4と勝ち越した。

 しかし、興誠も6回に山中翼の左越え2ランで追いつき、7回には敵失に乗じて、8対6と再逆転した。

 だが、日章学園も8回、4番・瀬間仲ノルベルトが右翼席中段に弾丸ライナーの同点2ランを放ち、試合は振り出しに。

 そして、8対8で迎えた9回、興誠は2死一、三塁、リリーフ・小笠原ユキオの暴投で1点を勝ち越した。

 その裏、日章学園も連打で無死一、三塁と反撃したが、「スクイズがあるかもしれない」と直感した今泉直弘がカウント1−1からの3球目を内角高めに外し、ダイビングキャッチの投飛で併殺。望月教治監督も「あのプレーが勝因です」と手放しの褒めようだった。

 終わってみれば、今泉は被安打22、毎回の先発全員安打を浴びながらも136球完投勝利。興誠は相手の半分にも満たない9安打で勝利した。

 一方、日章学園・中村好治監督は、22安打も放って敗れたのは史上初の珍事とあって、「打線は当たっていたが、投手を含めた守りが…」と渋い表情だった。

 17三振を奪ったにもかかわらず、延長戦の末、0対1で敗戦投手になるという不運に泣いたのが、平安の171センチ左腕・服部大輔だ。

 03年の3回戦、東北戦、相手の先発は同じ2年生で、194センチ右腕・ダルビッシュ有(現カブス)だった。両者はボーイズリーグ時代からのライバル同士とあって、「今度は絶対に負けたくなかった。三振の数でも」と意を決した服部は、0対2で敗れた前年秋の明治神宮大会での雪辱に燃え、5回までに11三振を奪う。

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ダルよりも三振奪ったのに…