「斎藤さんはいい役者、面白い役者と思うけど、女子がみんなエロいエロいと言う。そういう役者と、(オリンピックに)連れてってもらうけど結局出られないという役が、自分の中で繋がらなかった」

 だけど実際に放送を見ての話になり、トークが加速した。最終選考会で高石が飛び込む直前、隣のコースの後輩に「高石さん、よろしくお願いします」と言われ、チラッと横を見た。その斎藤さんがあまりにセクシーで、みんなが「セクシー」という気持ちがわかった。飛び込んで泳ぎだし、息継ぎをするたびにカッコいいなーと、かわいそうだなーと、ガンバレーとがこみ上げてきた。だから、抱かれたい。そう力説していた。

 私がその回を見たのは、宮藤さんのトークを聞いた後だった。そんなにセクシーだったのか、エロい息継ぎってどんなんだろうと、ワクワクしながら録画を再生した。

 結論から言うなら、セクシーさはそれほどでもなかった。チラッと見たところは一瞬過ぎたし、泳ぎ出してからもセクシーとは感じなかった。そもそもファンじゃないし。

 ところがターンしたあたりから、なぜか涙が出てきた、突然。日本選手団のメンバーの応援する顔がアップになり、夜中に密かに泳いでいたプールの守衛(黒人だ)が「Go on!」と叫んでいた。それらの映像と交互に、斎藤さんが映った。ひたすら泳いでいた。それだけなのに、涙がこぼれた。

 ああ、斎藤さんは自信があるんだな。そう思った。「泳いだことはありませんが、振り付けていただければ泳げます」なんだな、と。

 泳ぐとは、完璧な、本物の選手のように泳ぐことではない。宮藤さんの言葉を借りるなら、見ている人に「カッコいいなーと、かわいそうだなーと、ガンバレーと」を感じさせることなのだ。彼には演技への自信があり、そこにまんまと乗せられた私は涙を流し、宮藤さんは「抱かれたい」を連発した。たぶん、そういうことだと思う。

 だから主役でなくてもさほどカッコいい役でなくても、斎藤さんは引き受けるんだなあ。そうも思った。ずっと朝ドラ「半分、青い。」(2018年上期)が引っかかっていた。元住吉祥平という役だったのだが、実に不思議な役だった。

次のページ
なんのためにこの役を引き受けたのか…