朝ドラ好きとして申し上げるなら、主役級の役者が朝ドラにゲスト出演することは多々ある。だがそれは「2週間で問題を解決する正義の味方」とか、「2日しか出ないけどヒロインの将来を決める人物」とか、そういう「意味ある」役どころなのが普通だ。

 ところが元住吉祥平は、そうではなかった。ヒロインの夫が師と仰ぐ映画監督で、代表作「追憶のかたつむり」は海外の映画祭で賞を取ったという設定だった。かたつむりが動く映画のワンシーンも作られて、要所要所で映された。だがそれが謎の芸術風味の映像で、真剣に向き合えばいいのか笑った方がいいのかよくわからない、そんな感じのものだった。そもそも元住吉という珍しい名字は東横線の駅名由来と想像できるが、急行も止まらないしなー。そんな役なのだ。

 彼の屈折した思いゆえのずるい行動なども描かれ、そこからの葛藤、屈折を斎藤さんが熱演した記憶もある。だけどそれも含めて、結局わけがわからず、いつの間にか元住吉監督もフェイドアウトしていた。

 なんのためにこの役、斎藤さん、引き受けたかなあ。

 当時感じた不思議さも、このたび氷解した。「わからない役ですが、振り付けていただければやります」。それだったと思う。

 斎藤さんが「覆面お笑い芸人」として「R―1ぐらんぷり」予選に出場し1回戦で敗退、最終的には顔を出してコントを演じるという謎の深夜番組「MASKMEN」(テレビ東京系)もあった。あまり笑えないのはドキュメントだからしょうがないのかな、でも「ドラマ25」と打ち出していて、ドラマなのだとしたらもっと面白くしてほしいな。というような番組で、主演の斎藤さんの真意やいかに、とも思っていた。

 が、この謎も解けた。振り付けてもらえばやるのだ、斎藤さんは。ドキュメントだろうが、ドラマだろうが、あまり笑えないお笑いだろうが。そういう人なのだ。

 8月1日に映画「シン・ウルトラマン」の制作が発表された。主演は斎藤さんで、ウルトラマンになる男を演じる。企画・脚本は庵野秀明さんで、監督は樋口真嗣さん。「シン・ゴジラ」を大ヒットさせた2人は、斎藤さんにどんな振り付けをするのだろうか。(矢部万紀子

著者プロフィールを見る
矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

矢部万紀子の記事一覧はこちら