こうした例は、非正規全般で目立っている。例えば、派遣社員の場合は「派遣切り」が横行しやすい。2004年からの労働者派遣法の改正で、同じ派遣先で3年以上働くようであれば、正社員や契約社員などの形で直接雇用するよう「3年ルール」が決められた。これは非正規全般で同様で、同年は労働基準法も改正されて、非正規は3年を上限として、それ以上働くのであれば正社員化を促すための「3年ルール」であった。制度の趣旨とは逆の形で正社員化を嫌う企業は、3年で雇止めにする「派遣切り」が多いのが実態だ。厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(2017年度)によれば、3年ルールの対象者は4万6544人だったが、そのうち直接雇用されたのは、たった2702人だった。

 同居している武さんの80代の両親はからだが思うように動かなくなり、家事や買い物など日常生活は武さんが行っているため、実家から通勤できる範囲でしか就職活動ができないジレンマを抱える。いつか結婚して家族をもちたいが、生活に余裕がないなかで恋愛すら考えられない。それでも望みをかけて必死に仕事を探すが、正社員の求人といっても、月給15万円程度で退職金はない。介護や建設、運送業ばかりで、腰痛を患う武さんにとっては厳しい条件ばかり。「じっくり資格をとって医療機関で働くことができれば変わるのだけど」と思うが、行政の資格支援はヘルパーなど介護職が多く、展望が見えない。

 日々の生活といえば、給与の額は変わらず社会保障費は上がったので、可処分所得は減る一方だった。生活必需品や食品、日用品はじわじわと値上がりしている。地方の生活では必要な車のガソリン代も懐が痛む。スーパーで働いていた時に痛めた腰や首の治療費を払うと生活はカツカツになり、月1000円も貯金できない。前職でのパワハラのせいで睡眠導入剤や精神安定剤が欠かせなくなった。

「何だか悔しくて15年前からずっと心の中で、泣き続けている。安定、生きがい。そんな言葉がむなしく聞こえる。40代後半の就職は本当に厳しい。地方公務員の社会人経験枠の拡充と、年齢制限の撤廃があればいいのに。今のままでは、仕事を紹介してもらいやすい派遣のほうがマシかもしれない。引くも地獄、行くも地獄」と、武さんは途方に暮れる。

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政府が氷河期世代支援に力を入れ始めた理由