そして、バブル崩壊後の就職氷河期は何も新卒採用ばかりが主原因ではない。最初は正社員として働いても、いわゆるブラック企業ではわずか数年で辞めていくことになり、それが繰り返されてスキルを積めないまま非正規に転じるケースは決して少なくない。就職氷河期の余波は働き盛りであるはずの40代後半にも及んでおり、その層が226万人もいるのだ。複数のキャリアカウンセラーが「正直、45歳以上の正社員雇用は難しい」と言及していることから、この年齢層の非正規雇用ほど早急に丁寧な支援をしなければならないはずが、抜け落ちている。本稿で紹介している武さんは49歳のため国の定義からすれば就職氷河期世代から外れてしまうが、93年に大学を卒業しており、本来は支援対象になるはずなのだ。

 政府は35~44歳の非正規雇用が371万人としているが、自営業・家族従事者の94万人、「その他」(従業上の地位不詳、就業状況不詳)の9万人にも不安定な働き方は存在する。なぜなら企業は、本来は雇うべきところ「個人事業主」や「業務請負」などの契約をして社会保険料の負担を逃れている実態があるからだ。それらの約100万人が35~44歳の層にいるため、支援を要する人はもっと多いはずだ。年齢の対象を35~54歳の「中年層」に広げた場合、非正規雇用だけでも798万人という規模になる。

 筆者が労働問題をライフワークにしたきっかけは、就職氷河期世代の非正規雇用化を問題視したからだった。2004年5月から、当時在籍してきた週刊エコノミスト誌で繰り返しこの問題を特集してきた。当事者個々の生涯への影響もさることながら、格差が拡大して中間層が崩壊すれば日本経済の危機を招くからだ。しかし抜本的な解決策は講じられず、非正規雇用を生み出す雇用の規制緩和は行われ続けた。

 当時まだ若者だった氷河期世代は中年層に突入してしまった。2008年の段階で、NIRA総合研究開発機構は同世代を放置することで最大20兆円の生活保護費が追加的に発生すると衝撃のレポートを出したが、いよいよ現実味を帯びてきてはいないか。

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安楽死を考えたくなる社会