ホームで行われた質疑応答では、フィリピン運輸省職員から「ボタンをイタズラで押す場合も考えられるが、どう確かめるのか」という質問があった。東京メトロの職員は「イタズラかどうかを確かめるよりも、まず危険かどうかを確かめることが大切です」と、安全や人命に対する基本姿勢を説いていたのが印象的だった。

 友好的な雰囲気のなか、模擬駅の構造に対する説明が行われ、訓練生の授業風景も公開された。一糸乱れずに起立、点呼する訓練生の姿には、フィリピン運輸省職員たちも目を丸くしていた。

 続いて、運転シミュレーターに移動する。電車前頭部の前にモニターが置かれているタイプで、鉄道博物館などで見かけるものに近い。フィリピン運輸省職員が運転席に座り、東京メトロ職員に指導を受けながら、ハンドルを操作。その運転は的確で、駅の停止位置をほぼ守って停車したことに、双方の職員や報道陣から拍手が起こる。シミュレーターは訓練用だけに、自然災害も再現されている。「駅ホームで火災発生、安全のために通過」など、トラブル時の対応も実演される。

 最後に「桜田公園」という架空駅で地震が発生し、シミュレーター全体がグラリと横揺れした。そのリアルな挙動には、フィリピン運輸省職員はもちろん、報道陣一同も驚かされた。

■いちばん伝えたいのは連帯責任の大切さ

 研修の最後には、フィリピン政府運輸省プロジェクトリーダーのM.ヴィヤランテ氏、JICA運輸交通・情報通信グループの柿本恭志氏、東京メトロ国際業務部課長の谷坂隆博氏に対する質疑応答が行われた。三名のコメントは以下のとおり。

ヴィヤランテ氏:PRI設立に向けてインスピレーションが湧きました。フィリピンの鉄道運営にはJICAが関わってきましたが、このつながりから今回JICAを通じて支援が受けられることに感謝しています。鉄道にはいろいろな技術がありますが、この訓練を通じて感じた連帯責任の大切さを、私たちの国にも伝えたいと思います。

JICA・柿本氏:例えばMRT-2線は、もともと日本のODA(政府開発援助)で支援していました。ただ、残念ながら現在は18ある列車編成の半分が稼働していないという状況にあります。日本はODAを通じてフィリピン鉄道の設計や施工にも携わっていますので、これらのノウハウを含めて、今後もフィリピンの鉄道運営に協力していきたいです。

東京メトロ・谷坂氏:フィリピンには1800年代から鉄道があり、日本より開発が進んでいた時期もあるのです。そうしたプライドを呼び起こし、鉄道の仕事の社会的地位を高めることに貢献していきたい。日本はベトナムやインド、東南アジアでも鉄道サービスの質的向上に取り組んでいます。フィリピンの考え方を踏まえつつ、日本式の規律や考え方を理解してもらうことで、教育システムや安全・サービスへの意識を徹底したいですね。訓練終了後もフォローアップを行います。

 これからますます重要度が高まるであろう、フィリピンの鉄道運営。わが国のノウハウが伝わることで、フィリピンに安全・正確な鉄道運営が定着することを願ってやまない。(文/安藤昌季)