本物の駅そのものの訓練センター模擬駅。6000系試作車と05系が停車中(撮影/安藤昌季)
本物の駅そのものの訓練センター模擬駅。6000系試作車と05系が停車中(撮影/安藤昌季)
訓練センター入り口のモニターには歓迎の表示が(撮影/安藤昌季)
訓練センター入り口のモニターには歓迎の表示が(撮影/安藤昌季)
非常停止合図器を押すフィリピン運輸省職員(撮影/安藤昌季)
非常停止合図器を押すフィリピン運輸省職員(撮影/安藤昌季)
運転中にホームに火災発生!トラブル時の対応を運転シミュレーターで学ぶ(撮影/安藤昌季)
運転中にホームに火災発生!トラブル時の対応を運転シミュレーターで学ぶ(撮影/安藤昌季)

 東京メトロがJICA(国際協力機構)と共同で立ち上げた、「フィリピン鉄道訓練センター設立・運営能力強化支援プロジェクト」。2019年7月8~12日にかけて、東京都江東区の総合研修訓練センターではフィリピン政府運輸省の職員13名に対して、包括的な研修が行われた。

【写真】訓練センター入り口のモニターには歓迎の表示が

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■東京に匹敵する規模のマニラ

 フィリピン共和国の首都・マニラ。人口1186万人(2010年)、都市圏人口は2293万人(2016年)。東京の人口が1372万人、都市圏人口が3814万人という数字からも、マニラが世界有数の大都市圏ということが分かるだろう。

 この1186万人は東京23区(619平方キロメートル)よりやや広い638平方キロメートルに集中しているが、都市型鉄道は南北方向に伸びるLRT-1線(全長20km、20駅)と、東西方向に延びるMRT-2線(全長13.8km、11駅)、両線と接続するMRT-3線(全長16.8km、13駅)だけである。この3線を合計しても50.6km、44駅にとどまる。

 このほかにマニラを南北にフィリピン国鉄が貫いているが、非電化で設備も古く、ディーゼル機関車が元JR東日本の通勤形電車203系を引いている客車列車も走るほどである。メトロ・コミューターと呼ばれる都市圏通勤列車でも、3両編成の気動車であり、平日21往復(2016年8月現在)と、限定的な輸送量しか持てない現状である。

 日本では東京メトロと都営地下鉄だけで、全長304.1km、285駅があり、それ以外にもJRや大手私鉄、路面電車も走っている。マニラは人口において東京と大差ないが、公共交通機関の充実度は東京の1/10以下だと思われる。こうした公共交通機関の不備により、マニラでは深刻な交通渋滞が発生しており、その経済的損失は年間2.4兆円とも言われている。深刻な状況にもかかわらず、鉄道整備は遅れ、施設の老朽化やメンテナンスの不備により、運行トラブルも頻発しているという。

 そこで、ドゥテルテ大統領は交通インフラ整備を急務と捉えた。また、同時期に日本郵政による船員育成援助が行われており、その規律ある訓練内容に注目したドゥテルテ大統領は、鉄道にもこのような規律が必要だと考え、日本に対して鉄道インフラへの支援・訓練を要請した。併せてフィリピン政府は鉄道人材育成・監督機関として、2019年度中の「フィリピン鉄道訓練センター(以下PRI)」設立を決め、全フィリピンの鉄道事業者の職員15000人に知識・技術の研修を行う計画を進めている最中である。

 こうした動きに対して、日本政府のODA(政府開発援助)実施機関であるJICA(国際協力機構)は、東京地下鉄株式会社(以下東京メトロ)と共同で、「フィリピン鉄道訓練センター設立・運営能力強化支援プロジェクト」を2018年5月にスタートさせた。具体的には、東京メトロの総合研修訓練センター(東京都江東区)施設での研修のほか、駅・運転業務、車両・工務・電気保守業務の見学および体験を行う。これにより、どういった人的な仕組みで都市鉄道が運営されているのかを学んでもらい、PRIの訓練施設やカリキュラム作り、マニュアル作りに役立ててもらうのだという。

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フィリピンへのおもてなし精神にうれしくなる