ただし格安家賃にして広い場所を確保するために、これまでよりもちょっと不便な立地になった。平たく言えば駅とスーパーがすごく遠い。勤め人じゃないんだから、それくらいは我慢しないとな。

 とまあ、このようにいろいろ吟味検討した末に引っ越したはずなのに、住んで半年経たずにダメ出しとは、我ながらうんざりだ。部屋が狭い、いや広くないだけではない。家賃が十万を超えたため、連載仕事をたくさん入れざるをえなくなってしまったことも、大きい。

 斜陽著しい出版業界、仕事の依頼を頂けるだけでもありがたいし、雑誌の原稿料は一回ごとに入金されるのも好都合。単行本の場合は書き上げるにも時間がかかるし、印税が入金されるのは、刷り上がってからさらに2か月3か月先であることも珍しくないのだ。しかし連載を増やしていけば、どうしてもだらしない私は日々の締め切りに追われるうちに、書き下ろし単行本のお約束がずれていってしまう。

 気が付いたらヨガとバレエに行くほかは、連載の取材か原稿を書くかゲラを読むだけの殺伐とした日々となっていた。もちろん筆の早い書き手ならば、さっさとこなして夜はプライベートの時間をきっちり作ることもできるのだろうけれど。自分は生まれ変わってもできそうにない。

 東京を出て、家賃が安くて広い場所のある地方に移る。この閉塞状況を打破するためには、それしかない。都内を細かく取材する仕事はできなくなるけれど、そもそもそういう仕事をメインにしたいわけでもない。友達にも会いにくくなるけれど、都内にいたところで忙しくてそれぞれ一年に一回くらいのペースでしか、誰かと会っていない。

 仕事の依頼が減るのではという心配とて杞憂。現在ほとんどの仕事の依頼はメールか電話なので、編集者と飲んだり食事して決まるなどということも、めったにない。連載とて立ち上げのとき以降、取材同行の場合以外は、編集者と会うことも少ない。昔はもう少し会ったりしたような気もするのだが。