――88年に発売されたF4で本格的なAFが搭載されます。

後藤:電気回路系のリーダーでしたけれど、プロの方からはずいぶん怒られました。ライバルのEOS-1と比べてAFの性能がいま一つだと。

――私の記憶ではニューフェース診断室の診断ではGチャート(グラデーションのチャート)でAFが合焦すると、当時のドクターだった小倉磐夫先生の評価が高かった。つまり人間の肌に合うと。

後藤:そうでした。コントラストの低いGチャートに合焦させるのはいちばん難しかったですね。さらに予測駆動フォーカスで被写体の未来位置を予測できました。これも苦労して。予測駆動はなんとか搭載に間に合いましたね。

――縦走りシャッターが採用されて、New FM2と同じく250分の1秒シンクロもできる。

後藤:F4はプロユースですから、初めての縦走りシャッターの耐久性を達成するのが大変でした。今ではもう問題ありませんので、とても懐かしい苦労です。

――F4にはマルチパターン測光が採用され、TTL自動調光は高精度でプロの間でも信頼性が高いと評判でした。250分の1秒シンクロだから日中シンクロがしやすくて、しかもちゃんと適正露出になる。報道畑の仕事ではずいぶん助けられました。

後藤:当初からニコンのスピードライトの精度は安定していました。今でも同様の評価を頂いています。

――FマウントカメラではF4が新旧のレンズにかかわらず互換性に一番優れていてお金がかかっていますよね。

後藤:世界中で最も複雑、Fマウントカメラの中で最も面倒見のよいのがF4で、F3AF用の交換レンズまで使えます。

■F4の反省をもとに、F5では開発責任者

――96年に発売されるF5では開発の責任者でしたね。バッテリーが一体型になって大きくなりましたけど。

後藤:F4ではグリップに単3電池、F4Sでは二つに分かれたケースにバッテリーを入れるのも難儀しましたね。そんな大きなF5ではなく、小さいボディーを望まれる方はF100を使っていただくということにしました。発売にズレはありますが、F5とF100の企画と開発はオーバーラップして進行していました。

――多点測距AFでしたが、選択した測距点が黒く、濃く表示されます。

後藤:EC(エレクトロクロミック)ですね。黒く表示するところ以外はほぼ透明で、液晶よりもコントラストが高い特性があります。ただ、温度変化に敏感で、温度ごと微妙に電圧をコントロールするのが大変でした。

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「D1」の開発はトッププロジェクトでした