周囲の環境に影響されて、呼び方が変わるケースもあるようだ。都内の会社員、緒方和樹さん(34)は母親の澄子(すみこ)さん(61)を「すみ」というあだ名で呼んでいる。

「小学校までは『お母さん』と呼んでいましたが、中学あたりからだんだんと人前で呼びづらくなりました。友人らも『おふくろ』だったり、なかには名前で呼んでいる人もいて、『お母さん』は少数派でした」

 和樹さんの場合、母親と同じ職場で働くようになったことも影響したようだ。

「高校からアルバイトを始めたのですが、勤務先で関連会社のパートとして働いていた母と一緒に働くことがたびたびありました。上司や同僚に説明する際に、毎回『お母さん』と言う訳にもいかず…。フレンドリーな職場だったので、そこであだ名での呼び方が固定されていったのかもしれません。私につられてか、妹と弟も、母をあだ名で呼ぶようになっていきました」(和樹さん)

 名前やあだ名で呼ばれる関係について、親はどう思っているのか。前出の澄子さんは「親しみやすくて気に入っている」と話す。

「自然な流れであだ名になったので、特に嫌だという意識はありません。一時期、息子から『おふくろって呼ぶ?』と冗談交じりに聞かれましたが、私が歳をとったみたいで『それだけは嫌!』と答えたんです。息子が私を友人に紹介する時もあだ名なのですが、親しみを持ってもらいやすいのか、友達の輪に入るような感覚で話に入れることもあります。息子の嫁や孫も「すみちゃん」って呼んでくれて、距離感が近いんです」

 上記は呼び方を変えたことで関係性がよりよくなった例だと言えそうだ。

「名前やあだ名で呼ぶことは、実は対等な関係を築きやすいというメリットもあります。親は『お父さん、お母さん』や『パパ、ママ』と呼ばれることで、親になった自覚を持ち、その役割を演じようとします。成長の過程で呼ばれ方が変わったことで、子どもを対等な一人の人間として認識できるようになったのでしょう」(小玉教授)

 親子関係に悩む人は多い。そんな時には一度、呼び方を変えてみてはいかがだろうか。(AERA dot.編集部/井上啓太)