しかしながら、厚生労働省が2017年に実施したアンケート調査では、この方法でドリルを交換している歯科医師の割合は 64%と多数を占めたものの、一方で「薬液消毒」が20%、「洗浄のみ」が13%、「滅菌のみ」が3%という結果でした。つまり、36%が推奨される洗浄・滅菌をしていないということになります。

 さらに持ち手の部分であるハンドピースについては、口の中から少し遠くなることからなのか、ドリルと同じ手法で交換をする歯科医師の割合は52%と減ってしまいます。それどころか、「感染症があるとわかった場合に交換、滅菌をする」が17%、「消毒のみ」も14%ありました。

 なぜ、推奨される方法を実施しない歯科医師がいるのでしょうか。

 一つにはドリルにしても、ハンドピースにしても、高温で滅菌すると劣化が早くなるということがあります。特にドリルは刃物ですから、切れ味が悪くなることを嫌がる歯科医師はけっこういるのです。

「だったら、しょっちゅう取り換えればいいじゃない?」と思われるかもしれませんが、しかし、頻繁に取り換えればその分、コストがかかります。

 特にハンドピースは1本当たり8万~9万円と高額です。適切な滅菌処理をしながら使うと同じものが5~6本必要になり、これを負担と感じる歯科医師もいるでしょう。

 とはいえ、こうした見えないところまできちんと管理をすることはいい歯科医院の条件の一つといえるでしょう。

 では、適切な衛生管理をしている歯科医院をどうやって選ぶべきでしょうか。

 直接、歯科医院に聞くのが一番ですが、それ以外の方法としてはホームーページがあります。最近はきちんと滅菌していることをあえて記載している歯科医院が多いようです。 また、治療現場では、滅菌をしている場合、患者さんの目の前で袋を破って使用する器具を取り出すことが多いです。これも一つの目安になるでしょう。

 細かいことをいいますと、歯科医師が使う手袋も基本は患者さんごとに取り換えますが、中には手袋の上から消毒をするだけ(つまり、手袋を洗浄して使い回す)だったり、まれではありますが、手袋なしでやっている歯科医師もいます(昔はみんなこの方法でした。歯科医師は治療のたびに手を消毒しています)。

 治療中、あるいは待合室で待っている時間などに、歯科医師がどんなことをやっているかをこっそり見回してみるのも、いいかもしれません。

○若林健史(わかばやし・けんじ) 歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演

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若林健史

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若林健史(わかばやし・けんじ)。歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演。AERAdot.の連載をまとめた著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか?聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中。

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