「あえていうならContemporizationということかな。何十年も前につくった曲を、コンテンポラリーな手法と、今の声の状態と、音楽に対して現在の僕が持っている美意識でつくり直したものなんだ。そのプロジェクト全体のテーマは、シリアスになり過ぎず、楽しむということ。実際、とても楽しかった」(スティング)

 ツアーに取り組みながら世界各地で名曲の「現代化」に向きあい、ときにはバックステージに録音機材を持ち込んで作業をすることもあったというこのアルバムのキーワードとして、スティングは、“Reimagine”という言葉をあげている。再考する、あるいは、見つめ直す、と解釈したらいいだろうか。

 具体的には、それぞれの曲を、時代性を基準に徹底的に見つめ直したうえで、約半分のトラックを新たに録音したものと差し替えたのだそうだ。主に差し替えの対象となったのは、シンセサイザーやリズム・トラックなどその音色がもろに時代性を感じさせるもので、また、倍音構成がかなり変わってしまったと感じている自身の声は、ほぼすべて録音し直したという。ただし、基本姿勢として、オリジナルの雰囲気や感触は大切したそうで、たとえば「見つめていたい」での、キーがちょっと外れた、AとG#の中間のようなあの感じもそのままにされている。

 その「見つめていたい」に関してスティングは、こんなことも語ってくれた。

「ロックンロールは、本来シンプルでパワフルなものだけど、たとえばあの曲のように、9thコードを導入した途端、ものすごく複雑なものになる。ジャズ的な広がりを持ったサウンドになり、結果的に、曲のテーマに関して、より知的な可能性が広がっていくことになるんだ。もっと深いニュアンスの思想を描くことができる、ということかな。結婚式に使われてしまうようなロマンチックな曲ではあるけれど、同時に、邪悪な曲でもある。そういうことさ」(同)

 そのようにして書き上げてきた曲、しかも、たくさんの人たちに愛されてきた曲の、完成されたヴァージョンにどう向き合ったのか? 大切にしたポイントは、やはり、ライヴでのアプローチと、そこでの手応えということだった。

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