「曲は生き物だから、ときどき新たな酸素を吸収させてあげないといけない。美術館に展示するようなアートではないし、神聖な歌詞というものでもないからね。いつも歌うたびに、新たな生命を与えてあげて、生きいきと蘇らせなければいけない。それこそが僕の仕事だと思うんだ。たとえば「ロクサーヌ」は、毎回ステージで歌うわけだけど、でもそのたびに、書き上げたばかりのような気持ちでパフォーマンスしなくちゃいけない。同じくらいの好奇心、同じくらいのエネルギー、同じくらいの情熱で歌うということだね。そうすることで、つねに新しくて、これまでとは違うなにかを見出そうともしてきた。ジャズ・ミュージシャンのアプローチみたいな感じかな。だから、一度でも同じってことはない。つねに進化し、変化しつづけているんだ」(同)

 ポリスのメイン・ソングライター、リード・シンガーとして衝撃的なデビューをはたしたあの時代から、直近ではシャギーとのコラボレーションまで、それこそ数え切れないほどステージに立ち、マイクに向かってきたはずのスティングは、一貫してそういう姿勢でライヴ・パフォーマンスに取り組んできた。『マイ・ソングス』は、そういった姿勢や想いを新録音+再編集という画期的な手法で作品に移し替えたものといえるのではないだろうか。

 古くからの熱心なファンのなかには、どこがどう変わったのか気になってしまう方もいると思うが、本人も「よく思い出せない」そうだから、あまり詮索しないほうがいいのでは。「ブラン・ニュー・デイ2019」がアリアナ・グランデらとともにスポティファイのチャート上位に並んだことが本格的なアルバム化決断の引き金になったとも語っていて、彼の目は、今の時代と今の時代を生きる若い音楽ファンに向けられているようだ。

 選曲に関しては「曲のほうから主張してきたものを自然に選んでいった」そうで、とはいえ、15曲に絞り込むのは難しいことだった思うが、その選曲と新録音+再編集の作業で感じたこと、誕生の背景や経緯などを彼は、長尺のライナーノーツにまとめている。

次のページ