「WAVEでは1フロア貸切にしてもらい、ゆっくりCDを選んでいましたが、当時はアナログレコードからCDへの移行期。色々な企画盤が出ていて、ビクターが2枚のLPを1枚のCDにまとめた『2 in 1』シリーズというお買い得盤を出していたんですが、マイケルはそのダイアナ・ロスのを買って『これはいいアイディアだねぇ。2枚が1枚だなんて!』とご満悦でした。そこで僕がちょっかいを出して『そのシリーズでジャクソン5も出ているよ』なんて言ったら、マイケルが『ああ、あれはいいよ。どうせオレには一銭も入らないから』なんてあっさり軽く答えたんですよ。『ホント?』って聞き返すと笑ってました。モータウンとマイケルたちの契約は酷いもので、印税どころかアーティストとしての自由も何もない搾取でマイケルが苦悩した話は今では有名ですが、そうやって軽く笑い飛ばしてもいたんです」(清水さん)

 スタジオで生き生きとレコーディングし、軽口を叩いて笑うマイケル。ミュージシャンとしてのマイケルは他のアーティストたちと何ら変わらない、音楽を愛する一人の青年だった。ちなみにこのときは、東京・信濃町に出来たばかりだったCBS・ソニーのスタジオの見学にも訪れている。

「そのときはプロデューサーのクインシー・ジョーンズと、当時マイケルのレコーディングのエンジニアをしていたブルース・スウェディーンも一緒に来ました。もしかしたら次のレコーディング場所を探していたのか? とにかく熱心に見学していて、壁に彼らが日本語も交えてサインを大きく書き残して行ったんですが、今そのスタジオはソニー・ミュージックから別の人手に渡ってしまったんで、どうなったのか?わからないんです」(田中さん)

 田中さんは六本木のスタジオでマイケルがガヤをレコーディングするのにも立ち会っていて、そのときに忘れられない思い出があるという。

「レコーディングの合間にマイケルがお手洗いを借りたいというので、僕が案内した時のことです。ビルの端、角のところにトイレがあったんですが、そこにちょうど掃除をしている係の男性がいらして、パッと見てすぐ分かったんですが、彼の顔が大きくケロイド状になっていたんです。するとマイケルが『この方と握手したいんですけど、お願いしてもらえませんか?』と言う。そこで、『こちらの人があなたと握手したいと言ってるんですが、いいですか?』とだけ尋ねると、向こうも面食らったと思いますが、黙って頷かれたので、マイケルはその人の手を暫くの間握り、そして洗面所に入りました。その方にも特に、こちらマイケル・ジャクソンというスターの方で、とか説明はしませんでしたし、マイケルにもどうして握手したいのかも、聞きませんでしたが、僕が思うにマイケルは自らが黒人というマイノリティで多くの差別を受けたことで、社会的に弱い立場にある人に寄り添って行動する人だったんじゃないでしょうか。握手もその意思表示。偽善とかそういうことではないと思っています。だって、その場には僕とマイケルと、掃除の方しかいないわけですから、気取る必要もありません」

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弱者に寄り添い生きてきた