さて、マイケルがもし生きていたら、今年で還暦を迎えるはずだった。

「マイケルの周りで仕事をしていたアメリカのレコード会社の人たちとは今もFacebookなどを通じて繋がっていますし、仕事をすることもありますが、彼らは口を揃えて『今回のTVドキュメンタリーになったようなこと(少年虐待疑惑)は絶対にありえない』と言います。マイケルはスーパースターになったが故に、しかも黒人のスーパースターということで根深い差別があるのだと僕は考えています」と田中さんは言う。

 あまりに巨大に成長したスターへは時に常軌を逸したバッシングが行われる。バッシングする側に、さらにそれを読んだり見たりする側にもリアルな人間像が描けなくなってしまうのかもしれない。しかもマイケルは、今でもアメリカ社会で差別される側であり続け、歌の世界でもその差別が大きくクローズアップされ続ける「黒人」、その最初の超ド級のスーパースターだ。今もはこびるバッシングの底辺には、長年の黒人差別の歴史が常にあることをマイケルのニュースを読むたび、私たち自身が決して忘れてはいけないと自戒したい。

 マイケル・ジャクソン。享年50。いわれなき差別と誤解の中でもひたすら純粋に自分の目的を持って遂行して生きた人だった、と私は感じている。(文/和田静香)

■和田静香(わだ・しずか)/1965年、千葉県生まれ。音楽評論家・作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦が高じて最近は相撲についても書く。著書に『スー女のみかた 相撲ってなんて面白い!』『東京ロック・バー物語』など。自身が主催する「21世紀の相撲絵師たち展」を5月3日~12日(7,8日は休み)、「フリースペース緑壱」(東京・両国)で開催。