以後、アスリートの受賞はしばらくなく、2011年8月に「FIFA女子ワールドカップドイツ2011日本女子代表チーム」が受賞する。個人ではなく団体での受賞、かつ、ワールドカップで優勝を果たしたという“出来事”に対して贈られた点がほかとは異なる。受賞理由のメインは「東日本大震災の災禍から立ち上がらんとする被災者とすべての国民に勇気と感動を与えた功」である。

 アスリートの受賞はさらに続く。2012年11月には「世界選手権大会、五輪競技大会を通じて世界大会13連覇というレスリング競技史上前人未到の偉業を成し遂げ、多くの国民に深い感動と社会に明るい希望と勇気を与えた功」で、吉田沙保里が受賞。翌年2月には昭和の大横綱こと、納谷幸喜氏(元横綱大鵬)が受賞しているが、この時は没後受賞となったことから「遅すぎる」との批判もあった。

 2016年10月には伊調馨が受賞。理由は「五輪競技大会史上初めて、女子個人種目4連覇という世界的偉業を成し遂げ、多くの国民に深い感動と勇気、社会に明るい希望を与えた功」とある。

 と、受賞者の顔ぶれを見ていけば納得の賞なのだが、水泳の男子100メートル平泳ぎと200メートル平泳ぎでそれぞれ五輪2連覇の北島康介氏や、柔道で五輪3連覇の野村忠宏氏など、なぜこの人が貰っていないのか、と首を傾げたくなることも。規定では内閣総理大臣が「適当と認めるものに対して」「随時」表彰する、となっているため、タイミングも基準も実に曖昧だ。それゆえに「首相の人気取り」「国民栄誉賞のバーゲンセール」との批判もある。

 国民栄誉賞は人選だけでなく、贈るタイミングも難しい。記録を達成した直後に引退した選手であれば最高のはなむけになるが、これからまだまだチャレンジをしていきたい選手にとっては事情が異なる。

 イチローの場合は2001年、MLBで日本人選手史上初の首位打者となり、当時の小泉純一郎内閣が授与を検討した。しかし本人は「まだ現役で発展途上の選手なので、もし賞をいただけるのなら現役を引退した時に」と固辞。2004年にMLBのシーズン最多安打記録を更新した際にも打診を受けたが、同様の理由で辞退している。国を沸かせたその盛り上がりのままに授与できればいいが、英雄が英雄であるうちは辞退すると言っているのだから、難しい。

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タイミングも含め難しい国民栄誉賞の授与