逆の場合もある。2013年5月に受賞した“ミスター”こと長嶋茂雄氏の場合、「もっと早くあげればよかったのに」と感じた人も多かったのではないだろうか。受賞理由は「我が国の野球史上に残る輝かしい功績と顕著な貢献、国民的スターとして国民に深い感動と社会に明るい夢と希望を与えた功」で、まったくもってそのとおりだが、「なぜ今ごろ?」の感は拭えない。また、松井秀喜氏がこのとき同時に国民栄誉賞を受賞し、元巨人軍の師匠と弟子のW受賞となったことから、安倍首相の人気取りではないかとも言われた。

 当人がそれを望んでいないということもある。“世界の盗塁王”こと元阪急ブレーブスの福本豊氏は1983年に通算939盗塁の世界新記録(※当時)を樹立し、中曽根康弘首相から国民栄誉賞受賞を打診されたが「そんなんもろたら、立ちションもできへんようになる」と辞退したことで有名だ。“政府公認の国民的ヒーロー”つまり、“国民の手本”として生きていくことの重圧を感じさせた言葉だった。

 当人の気持ち、タイミング、国民の意向がすべて一致しての国民栄誉賞授与は難しい。イチローファンの中には、むしろ授与してほしくないという人もいる可能性もある。ほかにもふさわしい人がいるじゃないかという声だってある。また、「首相の人気取り」「政権浮揚の道具」という批判がなされることもよくある。ただひとつ言えるのは、イチローが国民栄誉賞に値する偉業を達成したということ。その点は誰にも否定できないだろう。