そうした中で、当時現実的かつ日常的に感じ、今なお強く印象に残っているのが震災発生当時の芸能界の在り様だ。

 震災発生を受けて多くの芸能関連のイベントが自粛という形で中止となり、それにかわってさまざまなチャリティー関連のイベントが連日のように行われた。

 知名度や影響力のある人気芸能人が被災地への募金や支援を呼び掛けることは意義深いこと、価値あることだと思う。

 被災地へ義援金を届けたり、自ら被災地に足を運んで救援物資を届けるなど支援活動に尽力する素晴らしい芸能人の姿もそこにはあった。

 だがその一方で、当時の芸能界全体を包んでいた過剰なまでの“自粛ムード”については多少なりとも違和感を覚えた。

 当時の芸能界はとかく、世間から「不謹慎」とのそしりを受けることに過敏になっていた。

「こんな時に金儲けしやがって!」というアンチからの批判を恐れて、チャリティー関連以外のイベントを行うことにはかなり及び腰になっていた。

 不謹慎とのそしりを受けることを恐れてネタやギャグも披露できず、イベント中もなんだか居心地が悪そうにしているお笑い芸人たち。地震や津波を連想させるとして「揺れる」や「波」などがNGワードとなり、その発言一つひとつにも気を配らなければならない状況となった。

 また、被災地、被災者への支援活動といった前向きな行動に関しても、その実一筋縄ではいかない部分もあった。

「自分だけ格好つけやがって!」と同業者から目を付けられないように、格上や先輩の芸能人の動向を注視し、出しゃばらないように空気を読むことも必要とされた。

 某歌手は被災地にも多くのファンや知り合いがいることもあり、すぐにでも被災地に足を運びエールを送りたかったものの、こうした理由で所属事務所から止められたことをこっそりと明かしてくれた。

 当時、芸能人が匿名で多額の義援金を被災地に寄付したことも一部で報じられたが、匿名にしなければならなかった理由の一つとして、このような事情があったことは間違いないだろう。

次のページ
実際、インターネット掲示板などでは…