実際、インターネット掲示板などでは、「○○はあれだけ稼いでいるのに△△より義援金が少ないな」など、本来善意の行いであるはずの義援金の額の大小を巡り、優劣をつけたり、批判するコメントも目に付いた。

 加えて言えば、こうした過剰な自粛ムードは経済的にも芸能人たちを苦しめることとなった。

 イベントやコンサートが中止になれば、当然、芸能人や芸能事務所、それに派生する業界全体の経済にも大きな影響が出る。

 某イベント会社のスタッフからは「被災地の方々の苦労を考えればこんなことを口にするのはどうかと思いますが、このままだとウチの会社は破産ですよ。やたらと自粛よりももっと前向きな支援の仕方もあると思うんですけどね」なんて嘆きの声も耳にした。

 芸能界の隆盛が、穏やかな日常のうえに成り立っていることを改めて痛感させられたものである。

 震災から8年、いまだに震災の爪痕は被災地を中心に残っているが、芸能界に広がった自粛ムードに関しては遠い昔のことになりつつある。

 一方でお笑いコンビ「サンドウィッチマン」「カンニング竹山」をはじめ、今もなお震災発生当時から変わることなく地道に被災地、被災者支援を続けている芸能人もいる。

 今年も震災復興支援公演を実施したAKB48グループの被災地復興支援活動“「誰かのために」プロジェクト”に対しても、当初は一部のアンチファンから「話題作り」、「偽善」などといった声も上がった。

 以前ほどメディアに報じられることはなくなったが、メンバーたちによる被災地訪問は今年3月で69回を数え、募金活動や被災地でのミニライブを行うなどプロジェクトの活動は現在も継続されており、このような現実にさすがに近年は一部アンチからの批判的な声も鳴りを潜めている。

 今もなお続くこうした芸能人たちの地道な支援活動を見るにつけて、一時の過剰な自粛ムードよりも意義のある、芸能人、芸能界ができる支援の在り方があることを再確認させられた気がする。(芸能評論家・三杉武)

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三杉武

三杉武

早稲田大学を卒業後、スポーツ紙の記者を経てフリーに転身し、記者時代に培った独自のネットワークを活かして芸能評論家として活動している。週刊誌やスポーツ紙、ニュースサイト等で芸能ニュースや芸能事象の解説を行っているほか、スクープも手掛ける。「AKB48選抜総選挙」では“論客(=公式評論家)”の一人とて約7年間にわたり総選挙の予想および解説を担当。日本の芸能文化全般を研究する「JAPAN芸能カルチャー研究所」の代表も務める。

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