そして、もうひとつ。精神的余裕は、ごんつくさんの悩みを理解してくれる人と話さないと生まれません。

 僕は演劇の演出家をしていて、理不尽な要求と出合うことがあります。例えば、物語と関係なく、「金と銀のスパンコールのついた真っ赤なドレスを絶対に着たい」なんていう俳優さんの要求です。

 どんな演出にするか、どんな衣裳プランにするか、装置の色はどうするか、なんてことを考える前に、俳優さんの都合で一方的に宣言されるのです。

 ものすごく理不尽ですが、その俳優さんがスターだったりすると、引き受けるしかなくなります。そういう時、一人で悶々としていると、精神衛生上、よくないです。

 こういう時は、プロデューサーとか演出助手とかと「やってられませんねえ」とか「あの俳優さん、こんなことやっていたらやがて仕事なくなるよねえ」とか「もっと理不尽な要求した俳優さん、知ってます」なんて会話をすることで、精神のバランスを保つのです。

 苦労しているのが自分だけじゃないと分かると、人間はなんとかやっていけるのです。

 ごんつくさんには、自分の娘さんの理不尽さを語れる相手はいますか?

 いなければ、すぐにつくりましょう。夫や母親がいなかったり、話せなかったりするなら、話せる誰かを見つけましょう。

 今どきは、ネットで同じような環境、悩みを持つ人と出会うことも簡単になりました。インターネットは、悪い面が強調されがちですが、同じ悩みを持つ人を見つけ出して出会うことを可能にした、とても優れたツールです。

 さて、ごんつくさん。

 まず、ちゃんと寝て、一人の時間を持って、グチや相談ができる相手を見つけて下さい。

 そこから、僕の「子供とのつきあい方」のアドバイスが始まります。

 それは、「子育てをがんばらない」ことです。

 カレーと言われて一生懸命作るから、「もう食べられない」と言われてムカつくのです。

「カレーを一生懸命作っても、また『いらない』と言われるかもしれない」と思ったら、ちゃんと作らなくていいのです。市販のレトルトカレーでごまかしましょう。レトルトカレーを拒否されても、そんなに腹は立たないでしょう。

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鴻上さんの考える子育てとは?