一生懸命、よかれと思ってやったことを否定されるから、可愛く思えなくなるのです。

「私は貴女にどうしてあげたらいいの?」と真剣にがんばってしまうから、理屈が通じない時にキレそうになるのです。

 子育ては、「子供を守り、子供の世話をやくこと」ではありません。子育ては、「子供を健康的に自立させること」だと僕は思っています。

 子育てに真面目過ぎるお母さんは、例えば、幼稚園や保育園から帰ってきた子供に、「~しなさい」「~をやりなさい」「~はどうなったの?」「~はどうだった?」といくつもの命令と質問を数分間に連発します。

 大人でも、音を上げます。営業から戻ってきた部下に、数分の間に、要求と命令を連発する上司みたいなものです。社員はどんどん辞めていくでしょう。

 ごんつくさん。

 安心していいです。未熟な要求を振り回して、理屈になってない理屈を言う時期は、そんなに長くは続きません。今は、「ポテトチップスが一番好きなら、今日のおかずはポテトチップスにしましょう!」ぐらいの軽い気持ちで接することが、娘さんをちゃんと自立に導く道なのです。

 4歳にもなれば、「ポテトチップス」と答えた時に、母親がムッとしているなんてことにも気付きます。そして、母親がそうなることが面白いという感覚も出てくるのです。

 ですから、ごんつくさん。がんばりすぎず、密着しすぎず、距離を取りながら、娘さんのしたいことを見守りましょう。

 もちろん、人間として踏み越えてはいけない一線はあります。それは教えなければいけません。でも、4歳児にとってはそんなに多くないはずです。友達を殴ってはいけないとか、ゴミを道に捨ててはいけないとか、ごはんの前には手を洗おうとか、それぐらいだと思います。

 子供の成長は楽しみですが、子供の成長しか楽しみがない、という状態は問題です。それはお互いを不幸にします。

 ごんつくさんがそういう状態でないのなら、自分の楽しみも追求しながら、がんばりすぎないで、つまりは、うまく家事や子育てを手抜きしながら、娘さんと接して下さい。その方がきっとうまくいくと思います。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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