この“根尾解体”の狙いを明かしたのは、今季から2軍内野守備走塁コーチに就任した荒木雅博だった。昨季、22年間の現役生活を終えた41歳の新任コーチは、現役通算2045安打、ゴールデングラブ賞を6年連続で受賞、ベストナイン3回と、中日の一時代を築いた名内野手だ。巡回野手コーチの立石充男も日本、韓国、台湾の3カ国のプロ球団で指導経験があり、今年でコーチ歴は32年目に入る。還暦を超えた61歳ながら、今もグラブをはめ、自ら手本を示す。2コーチともに、まさしく“守備職人”である。

「荒木コーチとも話をした上で、基本動作からやっていこうと。簡単にできることばかりなんだけどね」

 そう語る立石コーチは根尾の1つずつの動きに付き添い、丹念に、その都度、細かいアドバイスを送っていく。そのベテランコーチが指摘したのは、根尾の持つ“最大の長所”が欠点につながってしまう恐れだった。

「根尾は肩が強いんですよ。だから、その強さでカバーできてしまうところがありますね。捕って、ガッと行ってしまうわけですよ。でも、プロで長くやるためには、それではなく、1つ1つの動作、基本をやっていくこと。今の段階はそこですね」

 ノックで派手にダイビングキャッチをするわけでもなければ、三遊間の深いところから強肩を見せつけることもない。ひたすら低く腰を落とし、ゴロを捕る。捕って右手でつかみ、そこから素早くスローイング。1つ1つの細かい動きを“プロ仕様”にバージョンアップさせるための、地道な分解作業中なのだ。しかしこれは、2軍キャンプにいる今だからこそ、できる作業かもしれない。ケガをしたおかげで、荒木と立石という名伯楽の手ほどきを受けられるのだ。

 昨年、甲子園で春夏連覇を果たした大阪桐蔭高の中心メンバー、投打の二刀流で名をはせた根尾はプロでは「遊撃一本」で勝負することを公言。高校時代の活躍ぶりから、即戦力としての期待も大きかった。しかし、1月の合同自主トレ中に右ふくらはぎの肉離れを起こし、内定していたA組・1軍キャンプでのスタートが白紙となり、2軍の読谷組に回った。1軍スタートなら、2月3、4日に行われた紅白戦にも出場していただろう。根尾の勝負強さを考えれば、ヒットの1本も打っていたかもしれないし、ショートの守備も着実にこなしていただろう。

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バラバラにすることで見えてくる根尾の弱点